第7話 命の価値⑤
「こうなったら、妨害装置を破壊するしか術は無いわね」
銃声が聞こえる中、レーナさんは確かにそう言った。あたしもカレンさんも、思わずレーナさんに視線を向ける。
「どういう事だい、レーナちゃん?」
「さっきも言った通り、この基地には電波を妨害する強力な装置があるの。そのお陰で、誘導兵器は使用できない。だけど、その装置を破壊できればロケットを撃ち落とせるかもしれないわ」
「なんだと⁉」
これにはガエリオも驚きの表情だった。どうやら、そこにつけ入る隙はあるらしい。
「ダメもとで、軍のミサイル艦が近海で待機しているわ。妨害装置を破壊すれば、ミサイル艦でロケットを撃ち落とせるはず」
絶望の暗闇に、僅かな光が差してきた。もう他にできる事は無い。少しでも可能性があることをやりたい。
「そ、そうはさせない。僕の計画は、完璧でなければいけないんだ!」
脂汗を浮かべたガエリオは、自身のパソコンを操作した。すると、彼の後ろの壁が二つに割れた。中には、人が一人入れる程度の空間が広がっている。
「僕の夢は必ず成し遂げて見せる。誰にも邪魔はさせない!」
内部へと入ったガエリオは、側面についていたボタンを押した。すると、割れた壁が閉じていく。
「逃がさない!」
カレンさんは階段を駆け上がり、ガエリオの元へと走る。しかし、壁が閉まる速度の方が速かった。ガエリオの姿は、壁の中に消えていった。
「これは、エレベーターにでもなっているのか?」
「きっとそうね。イシュールは、きっと妨害装置の元に向かったに違いないわ」
それを聞いたあたしは立ち上がった。レーナさんの元へ駆け寄る。
「つまり、レーナさんは妨害装置の場所を知っているんですね?」
「うん。場所はこの真上。Gグループ本社の屋上よ」
ならば、やる事は一つ。あたしに今できる事はこれしかない。
「あたし、行きます。それを壊せば解決するんですもんね」
足は震えて、胸の鼓動も早くなってる。これが、どれだけ重要なことなのか。あたしも重々承知している。でも、レーナさんの部隊はバイオソルジャーの相手で手一杯だ。動けるあたしがやらないで、いったい誰がやると言うんだ。
「いい目をしてるわね。わかった、これを助手ちゃんに託そう」
あたしの覚悟が伝わったのか、満足そうにレーナさんは頷いてくれた。そして、弁当箱ほどの大きさの紙包みを渡された。かなりずっしりと重く、何やら危ない物の予感がする。
「これは……?」
「時限式の爆弾よ。これなら、装置を満足に破壊できるはず」
「爆弾っ⁉」
でもそうか。爆弾でも使わない限り、装置を壊すなんてことはできないんだ。
大事に胸元で抱え、あたしは頷く。
「じゃ、世界の命運は任せた! 小町ちゃん☆」
レーナさんは、いつもお店で見せるようなキラキラとした笑顔を向けてくれた。それからすぐ後ろを向き、銃撃戦が続く扉付近へと歩き始めた。
「初めて名前で呼ばれた……」
「こらこら、レーナちゃんに手を出すのは許さないよ」
後頭部を軽くチョップされる。振り向くと、目を細めたカレンさんがいた。
「別にそんなつもりじゃ――」
「それより、時間がない。屋上へ急ごう。恐らくあの階段を使えば、屋上まで行けるはずだよ」
カレンさんは、ガエリオが座っていた最上段の奥を指差した。確かに上に続く階段が見える。用意周到なガエリオの事だ、もしエレベーターが使えなくなった場合を考慮して作ったのかもしれない。
「行こう、小町。あいつの顔に一発入れないと、どうにも気が治まらないからね」
冗談っぽく言うカレンさんだったが、その瞳には炎が揺らいでいる。
「はい。あたしも、パンチの一発ぐらいさせてくださいよ!」
あたし達は、上へと向かう真っ暗な階段を上り始めた。
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