第7話 命の価値②

「これで大人しくおねんねしてするんだね」


 カレンさんが、二丁の拳銃から銃弾を放つ。あたしも、ショットガンを構える。少し距離があるけれど、まだ当たる距離のはずだ。そう信じて引き金を引く。

 あたし達とレーナさんの部隊、その二つから集中攻撃を受ければバイオソルジャーと言えどどうしようもない。


「面倒なことになったな」


 銃を下ろし、物陰に隠れるゴウ。それを確認したレーナさんは、仲間にハンドサインで指示を送った。

 素早く動く部隊の人達。ゴウが逃げられないように、囲い込むつもりらしい。


「好き勝手させるか!」


 流石に、ゴウもそれは見逃せない。物陰から身を出し、移動する兵士を撃とうとする。しかし、その隙をあたしとカレンさん、レーナさんが突く。


「顔を出したら危険じゃない?」


 容赦ない銃撃がゴウを襲う。数発、銃弾が彼の腕と胴体に命中した。


「ぐっ⁉ これは、不味い!」


 銃弾を受けてもびくともしなかったゴウが、攻撃を受けて青ざめる。どうやら、本当に特効弾は効き目があるらしい。表情を変えようとしなかったゴウが、顔を歪めているほどに。


「今だ、叩き込め!」


 レーナさんの声に、兵士達が応える。苦しむゴウに、これでもかと銃弾を浴びせる。

 十秒ほど、銃声が鳴り止むことはなかった。ゴウの巨体は倒れ込み、呻き声を上げながら泡に変わっていった。


「呆気ないものだね。あれほどのバイオソルジャーが、こうも簡単に倒せるなんて」


 憐れむような視線を送りながら、カレンさんは拳銃を仕舞った。


「きっとおごっていたのよ、自身の力に。その心の隙が、この状況を作ったんだわ」


 レーナさんはゴウだったものに見向きもせず、部屋の隅の扉を見ていた。制御室に続く、あの扉だ。レーナさんも、内部の構造を頭に入れているようだった。

 一戦終えて、あたしはため息をついていた。一時はどうなるかと思ったものだ。しかし、気の緩みを引き締めるように、突然サイレン音が鳴った。


『ロケット発射の最終プロセスに入ります。間もなく、最終プロセスに入ります』


 それは、ロケット発射まであと僅かだというスピーカーの放送だった。


「ゆっくりしてられないね。カレン、先を急ぎましょう」

「そうだね。今なら、この武器にこの人数。計画阻止も夢じゃない」


 駆け出すカレンさんに続いて、あたしとレーナさんの部隊も走り出した。

 扉を抜けると、真っすぐな通路に出た。左側には窓があり、見下ろすと発射目前のロケットが見える。慌ただしく、作業用の機械達が発射の準備を進めていた。


「そういえばレーナちゃん。どうして大陸側は、ミサイル攻撃や爆撃をしないんだい? それだけの戦力はあるだろうに」


 カレンさんの言う通り、大陸側は大きな軍事力を持っている。この計画を潰すのに、スパイを送り込むような回りくどいやり方を取る必要はないはずだ。


「それが、この基地のジャミングが強くてできないのよ。なんだか、強力な通信妨害装置みたいなものがあるらしくて、長距離の誘導兵器とかは使えないらしいんだって」

「まぁ、流石にイシュール・ガエリオもそれぐらいの対策は取っているか……」


 確かに、Gグループをここまで大きくした人物なら、何の手も打っていないはずはない。

 通路を駆け抜け、突き当りの扉まで来た。つまり、ここが制御室。ロケット発射の操作を行っている場所のはずだ。


「全員、射撃用意」


 レーナさんの一声で、兵士達がいつでも発砲できるように銃を構えた。そのうちの一人が扉の前に来る。扉の開閉ボタンに手を添え、こちらを見る。開ける指示を待っているようだ。

 あたしもカレンさんも銃を構える。


「よし、開けろ!」


 大きな声でレーナさんが言うと、扉が開いた。スライドして開いていく扉の向こうに、沢山のパソコン等の機械類が見える。それと同時に、人の姿もある。銃を持ったバイオソルジャー達だ。

 それが見えるや否や、一斉に射撃を開始する。不意を突かれた相手は、次々と銃弾を受けて倒れていく。


「行こうか」


 カレンさんが走り出し、扉を潜り抜ける。それに続き、あたし達も雪崩れ込むように部屋へと入っていく。

 制御室は、先ほどの部屋よりも狭かった。でもそれは、機械類が多く置いてあるからかもしれない。

 入って右を見ると、階段があった。よく見ると、この部屋は段々になっている。あたし達がいる一段目。二段目とは人の背丈ほどの差がある。二段目も、パソコン類が並んでいる。そこにもバイオソルジャーがいた。


「ヤバい、狙い撃ちにされる!」


 二段目の敵にも発砲しつつ、盾にできそうな場所を探す。丁度近くにデスクがあったので、そこに身を伏せながら攻撃を続行した。


「おっ、ようやくドンパチの時間かぁ」


 突然、三段目の場所から声がする。見上げると、あたしの知った顔があった。


「デイビッド・スラング‼」


 ニヤニヤとあたし達を見下ろしていたのは、カレンさんの宿敵だった。


「ここでイシュールの旦那の警護って言われた時には、心底がっかりしたんだぜ? オレは暴れられる場所が欲しかったんだよなぁ。そしたら、ここまで来てくれるとはな!」


 スラングの後ろには、堂々と椅子に腰かける人物の姿が見える。あれは、イシュール・ガエリオだ。テレビや新聞で見たことがある。あれが、Gグループのトップで、今回の計画の首謀者だ。


「ターゲットが揃い踏みとは、こちらとしてもありがたいね」


 カレンさんも、スラングとガエリオを見つけたらしい。口元は笑いながらも、その目は強い敵意を放っていた。


「血気盛んでいいじゃねぇか、お前。気に入った、お前が最初の獲物だ」


 ギラリと、獣のような鋭い視線がカレンさんに向けられる。


「なら私は、野獣を仕留めるハンターってところかな?」


 カレンさんはすぐに銃口を向け、スラングを狙った発砲した。しかし、銃弾は避けられてしまう。そのままスラングはしゃがみ込み、デスクの影に隠れてしまう。

 立ち位置の関係上、あたし達はスラングを見上げる形だ。高低差を利用して、スラングは死角に入り込んだのだ。

 突然見えなくなったスラング。いつ、どこから顔を出してくるかわからない。カレンさんは拳銃を構えながらも、視線をあちこちに向けていた。

 すると突然、カレンさんの拳銃が向いていない方向からスラングが飛び出してきた。両手には、細長い剣を持っている。近距離戦に持ち込む気だ。


「そこから来るのか⁉」


 慌ててカレンさんは、スラングに照準を合わせる。そして、すぐさま発砲。しかし、この攻撃は読めていたらしく、剣によって弾かれてしまった。


「肉を刻み、骨を断つ感覚……味わせてくれよなぁ!」


 勢いよく振り下ろされる剣。その一太刀を受ければ、ただでは済まないだろう。カレンさんもそれは承知しているはずだ。

 だんだん迫り来る剣を見切り、カレンさんは攻撃を避けた。


「すばしっこいじゃねぇか。そっちの方が燃えるんだがな!」


 攻撃を避けられたのに、スラングは嬉しそうに笑う。そして、隙だらけの背中があたしの方を向いた。

 絶好の攻撃チャンスだ。

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