第6話 突入!⑦

「なんで、笑っていられるんだ……」


 喉から絞り出すような声で、マリベルはゲルトに問う。


「へへ、これがバイオソルジャーの力ってことだ」


 ゲルトは生きている。胸を銃弾で貫かれながらも、笑っていられるほどに。

 今度はゲルトがマリベルの腕を掴んだ。そして、空いた片方の腕を自身の腰に回す。そこにはナイフが仕舞われていた。


「今度は、こっちの番だぜ」


 ギラリと刃を光らせながら、ゲルトはナイフを引き抜いた。そして、マリベルの肩に深々と突き刺す。

 マリベルの苦痛に悶える悲鳴が、嫌なほど響く。


「痛いか? 痛いだろ。俺だって胸を撃たれて痛かったんだ。お相子ってことで許してくれよな!」


 ケラケラ笑いながら、ゲルトはマリベルを蹴り飛ばした。勢いよく後方へと飛ばされるマリベルの体を、仲間達が何とかキャッチする。


「先輩、しっかりしてください!」


 口々に、仲間達が心配の声を上げる。マリベルはまだ意識があった。目を開け、歯を食いしばりながら頷いた。


「だ、大丈夫だ……」


 しかし、その痛々しい姿では説得力の無い言葉だ。


「こんな相手、どうやって倒せばいいのよ!」


 一人の女性が、悲鳴にも近い声で嘆く。自分達ではどうにもできない、圧倒的な力。戦力差は絶望的だ。他の仲間達も、意気消沈とし始めていた。


「親切心で言ってやる。バイオソルジャーには勝てない。データ収集もしていた俺が言うんだ、間違いないぜ?」


 さらに絶望の谷底へ落そうと、ゲルトはニヤニヤとしながらそう言った。


「まだ……だ」


 マリベルが、肩に刺さったナイフを引き抜きながら立ち上がった。傷口からは、血がとめどなく溢れている。しかし、そんな事お構いなしにマリベルは銃を構える。


「お前みたいな奴を、放っておけるか……。この街を、腐らせないために……お前達を全員、捕まえる! そして、法の下で……正当な裁きを受けてもらう」

「ハハハッ、ボロボロの体でよく言うぜ。その減らず口、二度と叩けないようにしてやらないとな」


 ゲルトが片手を上げる。すると、後ろで待機していた量産バイオソルジャー達が銃を構えた。一斉に撃たれれば、逃れようはない。絶体絶命のピンチに、マリベルの仲間達は目を瞑るしかできない。

 それでも、マリベルは口を開いた。


「ここで私達が倒れても、お前は必ず裁かれる。……私の仲間達のように、本当に守りたいものを守る人達によってだ」


 その言葉に、ゲルトは詰まらなさそうに舌打ちをした。


「お説教はもう聞き飽きたぜ」


 ゲルトの手が、ゆっくりと降ろされようとしている。

 その時だった。一発の弾丸が、マリベル達の背後から飛んできた。それは、量産バイオソルジャーの一体に命中した。

 弾丸を受けたバイオソルジャーは、膝から崩れ落ちた。いくら量産タイプだとしても、たった一発だけで倒れるのはおかしい。


「なんだ?」


 ゲルトは不思議に思い、後ろを振り向く。撃たれたバイオソルジャーは、痙攣しながら苦しそうに呻いていた。

 数秒後、そのバイオソルジャーは泡となって消えてしまった。


「う、嘘だろ……」

「これって――!」


 他の量産バイオソルジャー達が、慌てふためきながら顔を見合わせていた。その様子に、ゲルトも顔を青くしている。


「シュミッツ様、まさかこれは‼」

「うろたえるな! さっさと撃て――」


 攻撃支持を出そうとした瞬間、再び銃弾がバイオソルジャー達目掛けて飛んできた。今度は一発ではない。何発も、確実にバイオソルジャーを狙って放たれている。

 状況がわからないマリベル達は、巻き添えにならないように身を伏せていた。


「畜生! なんで、なんでなんだ⁉」


 ゲルトは、量産バイオソルジャーを押しのけて、一人PCルームへと駆けて行った。置き去りにされた量産バイオソルジャー達は、必死に何者かに応戦している。

 しかし、無敵と思われたバイオソルジャー達が一人、また一人と倒れていく。そして、先ほどと同様に、撃たれた者は泡へと変わっていった。

 一分ほどだろうか。銃撃は収まった。結果は、量産バイオソルジャーの全滅だった。


「な、何が起きたんだ……」


 マリベルをはじめ、全員が突然の出来事に呆気に取られていた。


「まさか、俺達の他に戦っている奴らがいるなんてな」


 マリベル達の背後から、男の声が聞こえる。複数の足音と共に、人影が姿を現した。


「だ、誰なんだ⁉」


 マリベルの後輩の一人が、銃を向ける。


「待て待て、恐らく俺達は敵同士じゃない」


 先頭を歩いていた男が両手を上げる。そして、敵対心が無い事を表すように、ゆっくりとマリベル達の元に近づいてきた。

 銃弾も弾きそうな、しっかりとしたヘルメット。分厚く、防弾性にも十分そうなレンジャー服。一目見て受ける印象は、軍人そのものだった。


「そのマークは……!」


 マリベルは、男の腕に付いているワッペンを見つける。一つは国旗。もう一つは、その国の部隊のシンボルだった。


「あぁ、俺達は海の向こうの大陸から来た特殊部隊だ。この街で良からぬ事を考えてる馬鹿をとっちめる為にな」


 予想の斜め上をいく人物達の登場に、マリベル達は目を丸くしていた。

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