第6話 突入!⑥
カレン、小町ペアとは別行動をとっていたマリベル・ファルネーゼの一行は、施設内のPCルームを探して下階へと進んでいた。
「まったく、骨が折れるな……」
通路に倒れた警備のバイオソルジャー達を見下ろしながら、マリベルはため息をついていた。カレン達と同様に、マリベル達も量産タイプのバイオソルジャーと銃撃戦を交えていたのだった。
何度も襲い掛かるバイオソルジャーとの戦いで、マリベルの仲間も傷を負っていた。
「応急手当てが済み次第、先を急ぐぞ」
マリベルは焦っていた。バイオソルジャーの実力を知ったからだ。
こんな敵が世界中で一斉に暴れ出したら、速やかに鎮圧するのは困難だ。Gグループの親玉は、その混乱に乗じて世界を手に入れようと画策している。このまま計画が滞りなく進めば、間違いなく敵の思い通りの展開になってしまうからだった。
「先輩! こっちに地図がありますよ!」
マリベルの元に、先を偵察していた男性の一人が駆け寄ってきた。
「本当か! これで目的地まで迷う事は無いな」
男性に案内され、マリベルは壁に取り付けてあった地図を見る。目的のPCルームはすぐそこだ。
「よし、行くぞ」
手当てが終わり、全員で周囲を警戒しながら進む。しかし、敵の影は見当たらなかった。ここまで来るのに、警備兵は幾度となく見た。それなのに、いきなり姿が見えなくなったのだ。
マリベルは警戒心を一層強める。彼女の直感が、危険を知らせていた。
「ようやくご到着か。待ってたぜ」
通路の曲がり角から、男が出てきた。一人だけじゃない。背後にバイオソルジャー達を従えて現れた。
マリベル達は銃を一斉に構える。それでも、男は怯える素振りを一切見せない。
「お前達がここに用があるってのは、だいたい見当がつくもんだ。だから、先回りして待ってやってたのさ。こいつらを連れてな」
そう言うと男は、背後のバイオソルジャー達を見やった。
男の言う通り、この曲がり角の先にPCルームがある。ここでマリベルは、警備兵達の姿が見えなくなった理由に気が付いた。
「戦力を集中させるため、か」
「そういう事だ。流石は、俺に数発撃ち込んだ連中の頭だな」
その台詞で、マリベルは相手が誰だか思い出した。
「街で暴れて、橘達を襲っていた二人組の片方か!」
そう、橘探偵事務所を爆破して、街を駆けまわっていた男だった。
「当たり。俺の名前はゲルト・シュミッツ。マリベル・ファルネーゼ、お前が血眼で探していた男さ」
ヒヒヒッ、と下卑た笑みを浮かべるゲルト。その格好は、全身が黒いスーツ姿。サングラスをかけた姿は、まるでSPのようにも見える。
「私が、探していた……?」
「おいおい、わからないなんて言うなよ?」
短い顎髭を撫でながら、挑発するようにゲルトが煽る。
マリベルは、再びゲルトの全身を見た。特徴的な、黒服姿。
「……黒い服⁉ まさか、お前がリサ・ローズ・バレットに薬を渡した黒い服の男か‼」
あの死神さん事件の元凶、リサに身体能力強化の薬を差し出したとされる黒い服の男。カレン達が探していた、Gグループのエージェントだ。
「正解! 俺があの小娘に薬を渡した犯人さ」
「なぜそんな事をしたんだ⁉」
「仕事だからさ」
マリベルの問いに、ゲルトは間髪入れず答えた。悪びれる様子もなく、さも当然と言うように。
「俺の仕事はそういった裏工作が中心だったんだ。でもな、あの事件で尻尾を掴まれた俺は、罰を受けなきゃならなくなっちまったんだよ。ガエリオさんに手間かけちまったからなぁ」
「ガエリオ……。GグループのCEO、イシュール・ガエリオか」
「そうだ。俺が捕まらないように、警察に圧を掛けてくれたんだよ」
マリベルは納得した。今まで、そうなんじゃないかと疑っていたが、これで確信がいった。Gプロジェクトを滞りなく進行させるために、ガエリオが手を打っていたのだ。
「お陰で俺は、失敗の責任を取らされたよ。この身を実験台に変えさせられてな!」
握りこぶしを作ると、ゲルトは悔しそうに顔をしかめた。
「俺は今まで、実験を観測する側だったのに……。今じゃ、データを取られる側だ畜生!」
「それを自業自得と言うんだが」
勝手に一人で熱くなるゲルトを見て、マリベルは反対に冷静になった。あまりの身勝手さに怒りより呆れの感情が出てきてしまっていた。
「だがよぉ、この身体は悪いことばかりじゃなかったぜ。人間を超えた力、圧倒的な戦闘力。これを存分に振るえるってのは、かなり気持ちがいいもんだ」
先ほどまでの表情とは反対に、ゲルトはニヤリと笑った。その笑みに、マリベル達は不気味さを感じる。
「それに、この力があれば……俺の身体をこんなんにした張本人をぶっ飛ばせるからな!」
大声と共に、ゲルトは一直線に走り出した。目標はマリベルだ。
「撃てっ!」
マリベルは瞬時に号令を出す。それを合図に、全員が一斉に銃を撃ち始める。
しかし、ゲルトは素早い動きで銃弾を掻い潜る。時々、弾が足や胴体に命中するが、一向に止まる気配は無い。
「おらおらどうした! そんなんじゃ俺は止められないぞ! バイオソルジャーの俺はなぁ!」
血走った目が、狂気を感じさせる。その様子に、マリベルの仲間達は恐怖を覚えた。
だが、マリベルだけは違った。止まらないゲルトに向かって、彼女も走り出したのだ。
「せ、先輩⁉」
あまりの驚きに、全員が攻撃の手を止めてしまう。
接近する両者の距離が、あっと言う間に縮まる。
「この距離なら!」
マリベルが至近距離で発砲を開始した。しかし、それでもゲルトは銃弾を避ける。普通の人間ならあり得ないほどに体を逸らし、まるでゴムのように伸縮して回避する。
「甘いんだよポリ公が!」
そして、二人の距離は手の届く範囲まで近づいた。その瞬間、ゲルトがパンチを繰り出す。常人では不可能な速度で、拳がマリベルまで伸びていく。あまりの速さに、マリベルは回避できない。拳は、マリベルの頬に命中した。
鈍い音が通路に響く。
「おらっ! もう一発どうだ?」
今度はマリベルの懐に、ボディブローが決まる。
あまりの威力に、マリベルの口元からは
「もうダウンかよ。しょうがねぇからよ、謝ったら許してやってもいいんだぜ?」
馬鹿にするように、ゲルトはふざけたような口調で言う。
だが、マリベルは歯を食いしばりながら、ゲルトを睨んだ。
「謝るのはお前のほうだろうが……」
その瞬間、マリベルはゲルトの腕を引っ張った。前屈みになったゲルトの胸元には、銃口が付きつけられる。
「避けてみろよ!」
トリガーは引かれ、銃弾が飛び出す。ゼロ距離で撃たれては、ゲルトも避けようがない。連続で飛び出す弾丸が、胸を貫き背中から抜けて行く。
間違いなく、マリベルの銃弾は全て命中した。
「や、やった!」
その様子に、マリベルの仲間達はガッツポーズを取った。しかし、マリベルだけは動かないままだった。
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