第6話 突入!⑤

 思考を巡らせていた時、何かが砕ける音がした。そして、左腕に痛みが走る。


「な、なに……⁉」


 痛む個所を見ると、木片が突き刺さっていた。なぜ、こんな事になっているのか。パニックになりながらも、あたしは視線を動かす。

 すると、近くに他にも木片が転がっているのが見える。その奥には、脚を無くして傾くソファが見える。

 どうやら、銃弾がソファの脚を砕き、飛び散った破片の一つが腕に刺さったようだ。幸いにも、木片は小さくて傷も浅い。でも、次もそうとは限らないだろう。

 早くこの状況から脱しないといけない。しかし、今顔を出せばあっという間に撃ち抜かれてしまいそうだ。だからと言って、ここでじっとしていてもいつかは弾丸があたしに命中するだろう。これでは袋小路だ。八方塞がりだ。

 我ながら情けない話だけれど、こういう時は心の中で思わず叫んでしまう。助けてカレンさん、と。

 しかし、カレンさんも他人に構っている余裕はなさそうだった。


「いつまで逃げ回るつもりかしら?」


 カレンさんとシェミーは、倒れたテーブルを挟みながら撃ち合いを続けていた。状況は、傍から見るとシェミー優勢に見える。


「ほらほら、わたくしを倒してごらんなさいよ!」


 テーブルの影から身を出したカレンさん目掛けて、シェミーがマシンガンを連射させる。カレンさんは、それをスレスレで避けると拳銃で応戦する。

 銃弾は正確に目標へ飛ぶ。しかし、シェミーの驚異的な身体能力によって命中することはない。


「まったく、見た目のわりにすばしっこいおば様だよ」


 カレンさんは呆れながら、拳銃の弾倉を交換する。


「所詮は口だけのようね、探偵の小娘ちゃん。わたくしに銃弾も当てられないようじゃ、デビィには会えないわよ」


 オホホホホ、と高笑いするシェミー。リロードを終えたカレンさんは、再び机の影から飛び出す。


「あの男は、私が必ず倒す」


 すると、凄まじい勢いで拳銃を連発し始めた。二丁の拳銃がリズムよく、交互に弾を撃ち出していく。

 しかし、これもまたシェミーは難なくかわしてしまった。


「あなたには学習能力が無いのかしら? 可哀想なほど愚かね――」


 シェミーが嘲笑うのを余所に、カレンさんはいきなり拳銃を天井に向けた。その様子に、シェミーの言葉が詰まる。

 そして、カレンさんは天井に向かって発砲した。弾は真っすぐ飛んで行き、天井に備え付けてあった照明の一つを破壊した。ガラスが割れる音と共に、カレンさん達を照らしていた明かりが消える。

 続けて、両隣にある照明もカレンさんは拳銃で破壊した。あっという間に、カレンさんの周りは暗くなってしまう。


「何を考えているのかしら?」


 キラキラと、バラバラになった照明のガラスが落ちる中、シェミーは鼻で笑いながら尋ねる。

 しかし、返答はカレンさんの言葉ではなく弾丸で返ってきた。

 連続で二発、シェミーの胴体に銃弾は命中する。


「いきなり暗くなったら、流石のバイオソルジャーでも弾は見にくいらしいね」


 次の瞬間、ようやくシェミーは自身が攻撃を受けたことを自覚したらしい。耳障りな悲鳴を上げながら、撃たれた箇所を押さえる。


「お前、お前っ! わたくしだって、撃たれれば痛いのよ! ふざけた真似をしてくれる!」


 あっという間に頭に血が上ったシェミーは、叫び声を上げながらマシンガンを乱射し始めた。カレンさんだけでなく、壁や周りの机、椅子も同様に撃つ。


「見境なしって感じだね……」


 身を屈めながら、シェミーの隙を窺うカレンさん。しかし、シェミーは感情のままに暴れまわり続けた。

 次第に、流れ弾があたしやゴウの元にも飛んでくるようになる。


「見方も撃つ気か、シェミー・プラハウ!」


 ゴウは怒鳴りながら、近くの物陰に逃げ込んだ。

 あたしはどこにも逃げられず、ただソファの影に潜むばかり。


「やっぱり、攻撃が通用しないと話にならないか」


 カレンさんが銃弾を撃ち込んだのに、これだけ暴れまわるんだ。どうやって、この二人を倒せばいいのだろうか。

 銃声が鼓膜を揺さぶる中、必死に脳を回転させる。

 しかし、それは強引に破られた。銃声とは違う、大きな音と振動が部屋全体を襲った。そう思った瞬間、部屋の壁が急に爆発した。


「うわっ⁉」

「な、なんだ⁉」


 あたしもゴウも驚きの声を上げる。

 爆発の影響か、部屋の電気が一斉に消えた。部屋は暗くなり、舞い上がった土煙がさらに視界を悪化させる。

 この状況はシェミーも予測できなかったらしく、銃声とヒステリーは止んだ。


「いったい、何が起きたんだ……」


 その場に居た全員が混乱していた。

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