第6話 突入!③

 こうして、扉を潜り抜けると大きな空間に出た。まるでホテルのロビーのような広さで、椅子などが置かれている。

 そこには、この基地の職員と思われる人達が多くいた。武装をしている感じはなく、非戦闘員らしい。いきなり扉が爆発し、侵入者がやって来たからか怯えて逃げ惑っていた。

 この騒ぎを聞きつけたのか、武器を持った新たなバイオソルジャー達が部屋の隅の扉からやって来た。


「何が起きたんだ!」

「落ち着けお前達っ!」


 バイオソルジャーの呼びかけに、職員達は避難を開始した。こちらとしても、戦う意思のない相手に怪我をさせたい訳じゃない。

 しかし、この騒ぎはこちらにとっても好都合だ。バイオソルジャーはまだ、あたし達の事を見つけていない。


「隙だらけだね」


 カレンさんがライフルを構える。そして、一番近くのバイオソルジャー目掛けて撃った。銃弾は見事命中し、撃たれたバイオソルジャーは傷口を押さえて苦しんでいた。


「やっぱり量産タイプは、あいつらほど打たれ強い訳じゃなさそうだね。コストカットの関係かな?」


 だとしても、普通の人なら動けないほどの傷のはず。やはり、量産のバイオソルジャーでも身体能力はかなり底上げされているようだ。


「あれが侵入者か⁉ 撃てっ!」


 こちらの攻撃に気が付いて、バイオソルジャー達も動き始めた。あたし達は、近くにあったソファの影に逃げ込む。


「あの扉から、制御室に行けそうだね」


 そう言ってカレンさんは、バイオソルジャー達が出てきた扉を指差した。


「敵陣突破をしないと進めないって訳ですか。厄介ですね」


 ただでさえ多勢に無勢なのに、相手はバイオソルジャーだ。本当に突破できるかも怪しいところだろう。


「でも、突破するしかないからね!」


 カレンさんはライフルを構え、ソファから身を乗り出す。そして、迫り来る敵目掛けて銃撃を再開する。あたしも、接近してきた敵をショットガンで狙う。スタッカート事件以来、ショットガンを使う事はなかったけど、大丈夫。あたしならできるはずだ。

 狙いを定め、トリガーを引く。激しい反動と共に、散弾が飛び出す。拡散した弾が、相手の胴体に複数穴を開ける。

 命中した相手は、呻き声を上げながらひっくり返った。流石に、バイオソルジャーと言えども、このダメージは相当らしい。

 しかし、敵の数も多い。数多の銃弾が、あたし達を貫こうと飛んでくる。撃ってはソファに隠れ、再び身を乗り出して撃つ。それでも銃弾の雨が止むことはない。


「向こうも馬鹿じゃないってことだね」


 カレンさんの言う通り、敵も椅子や机を盾にし始めた。お互いに攻撃を命中できずに、撃ち合いが泥沼化しているのだった。


「どうしますか⁉ このままじゃ、相手の増援が来て押し切られちゃいますよ⁉」


 ここは敵の基地内部。いくらでも敵が湧いてくると覚悟した方がいい。場合によっては、簡単に背後だって取られてしまうだろう。


「確かに、時間だってかけていられないしね」


 ロケットだって発射しようとしている。タイムリミットは、刻一刻と迫っているんだ。


「なら、こいつで援護してほしい。私は突っ込むからね!」


 カレンさんは、自身の持っていたライフル銃を投げ渡してきた。あたしが受け取るのを確認したら、なんとカレンさんはバイオソルジャー達に飛び込んで行った。

 いったいどうするつもりなんだ。一瞬、頭が混乱した。でも、カレンさんは援護してくれとハッキリ言ったんだ。とにかく、あたしが今できる事はそれだ。


「それぐらいの仕事、こなしてみせますよ!」


 ソファから身を出し、状況を確認する。

 突然飛び出してきたカレンさんに、敵は意表を突かれたようだ。向かってくるカレンさんに対応できていない。

 カレンさんは敵が盾にしている机を飛び越えると、胸元から二丁の拳銃を取り出した。


「やっぱり、お前達が一番手に馴染むよ」


 すぐさま、机の影に隠れていた敵に銃口が向けられる。そして、間髪入れずに発砲。ここからはハッキリ見えないが、血しぶきが上がったのを確認できる。

 仲間が撃たれた頃、ようやく他のバイオソルジャーも動き出した。敵陣の中央にいるカレンさんを狙って、一斉に銃が向く。

 不味い、あれでは避けようがない。だからこそ、あたしの援護が必要なんだ!


「隙だらけですって!」


 ライフル銃を構え、一番手前にいる敵を狙う。初めて使う武器だけど、使い方はカレンさんを見ていたからわかる。ストックを肩に当て、狙いを定める。そして、トリガーを引く。

 瞬間、ズンッと衝撃が走る。同時に、狙った敵が倒れ込んだ。弾はちゃんと当たったんだ。


「その調子で頼むよ!」


 高らかにカレンさんが叫ぶと、両隣の敵目掛けて拳銃を発砲する。次に腕を胸元で交差させ、別角度にいる敵を狙い撃った。

 どれも攻撃は全弾命中。この人の動きも、なかなか怪物じみている。

 それでも、やっぱり隙というものは生まれてしまうんだ。そこを突こうと、敵が動く。そういう敵を狙うのが、あたしの役割。


「次っ!」


 カレンさんを狙う敵を狙って、撃つ。銃声と共に、敵が倒れる。

 やった! そう思ったのも束の間、敵はまだまだいる。その中には、あたしが援護射撃でカバーしきれない敵もいる。次弾を装填していると、敵が一人カレンさんを狙って発砲しようとしていた。


「カレンさん危ない!」


 あたしが言い終わるか終わらないか、そんなタイミングで敵が引き金を引く。銃弾はカレンさんの頭部を狙っているみたいだ。

 ヤバい、このままじゃ弾丸が――。

 そんな心配は必要なかった。まるで踊るようにステップを踏み、カレンさんが銃弾を避ける。しかも、回避しながら撃ってきた敵に撃ち返したのだ。カレンさんの放った銃弾は、敵の肩に命中したらしい。呻き声と共に、腕から銃を落とす様子が見られた。

 その後も、敵がカレンさんを狙って発砲する。しかし、流れるような動きで銃弾を避けてみせた。流石の敵も、これでは埒が明かないと思ったらしい。


「この野郎っ‼」


 ナイフのような刃物を手に、カレンさんに向かって走り出したのだ。カレンさんは、迫り来る敵を横目で確認すると、くるりと左足を軸にして回った。

 飛び交う銃弾を避けながら、迫り来る敵目掛けて回し蹴りを食らわせたのだ。


「誰が野郎だって?」


 蹴りは見事に顔面に直撃する。敵は、そのまま床に叩きつけられるように倒れた。


「可哀想に。こんなに美しい私が見えなくなっちゃったねぇ」


 顔にかかった髪の毛をたくし上げながら、妖艶に笑ってみせるカレンさん。まるで魔女か悪魔か。近づけばとりこにされ、そのまま食べられてしまいそうな雰囲気が溢れている。

 他のバイオソルジャーも、同じような事を感じたのだろう。顔が恐怖で引きつっている。バイオソルジャーと言えど、所詮は人間。そこには心があるという事だ。

 恐怖は身を固め、隙を作る。あたしもカレンさんも、それを見逃さない。

 敵を一掃する勢いで、攻撃を続けた。次々と敵は倒れ、逃げ出す者まで出る始末。あっという間に、主導権は完全にこちらが握っていた。

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