第6話 突入!②

 カレンさんとは正反対に、ファルネーゼさんは用心し銃を構えて鉄扉の先を覗き見る。


「お、おい橘……!」


 そんなファルネーゼさんが、驚愕の声を上げた。あたし達も武器を構えながら、開いていく扉の先の光景を見た。


「ロケットだ……」


 ギラリと煌めく流線形のボディは、まさしくロケットだ。それもかなり大きい。しかも、それは一機だけじゃない。少なくとも、ここからは同じ物が五機も見える。


「間違いない、バイオソルジャーを打ち上げるためのロケットだね」


 カレンさんを先頭に、あたし達はGグループの秘密基地内部に足を踏み入れた。中は、地下だという事を忘れてしまいそうなほど明るい。鉄骨が剥き出しになった壁や天井は、秘密基地感をさらに高めていた。

 あたし達はどうやら、基地の壁に沿うように作られた通路に出てきたようだ。天井よりも床の方が遠く、下を覗けばいくつもの階段と通路が見えた。


「あれ? カレンさん、なんだかロケットから煙が出てますよ」


 通路の手摺てすりから身を乗り出してロケットを見ていると、その下部から煙が上がって見えた。何かトラブルでも起きているんだろうか。


「本当だね。これは、思ったより時間がないかもしれない」

「それって――」


 その時、基地内にあるスピーカーから声が響いた。


『間もなく燃料注入完了。準備ができ次第、発射最終シークエンスに入る。作業員は、撤収作業に移れ』

「不味いぞ橘。発射目前じゃないか!」


 もしこのままロケットが発射したら、バイオソルジャーが世界中の主要軍事施設を制圧しにかかる。そうなってしまえば、手遅れだ。

 あたしも、焦りを抱えながらカレンさんを見つめる。


「そうだね、ここからは二手に別れよう。マリー達は、システムを落として欲しい。きっとどこかにPCルームがあるはずだ」

「わかった、再起不能になるぐらいに破壊してやる。それで、橘達は?」

「私達は、制御室を目指す。今はいち早く、ロケットの発射を阻止したいからね」


 そう言うと、カレンさんはあたしを見た。覚悟はいいかい、と問うような視線だ。

 そんなの、ここに向かう時からとっくにできている。とてつもない激しい戦いが待っているかもしれない。それで命を危険に晒したりするだろう。でも、それを怖がっていては世界が崩壊する。そっちの方が嫌だと、あたしは思う。


「行きましょうカレンさん。もうこんな計画が立てられないように、ギッタギタにしてやりましょう!」

「……いい目をするようになったね、小町」


 何故か、フフッと笑われてしまった。今のは笑う所じゃないと思うのだけれど。


「マリー、そっちは任せた。どちらかが成功すれば、この作戦は成功する」

「そうだな。何かあれば連絡を――」


 ファルネーゼさんはそう言いかけて、スマホの画面を睨んだ


「ここ、電波死んでるな。地下だし、当たり前か」

「そうなると、お互いの状況はわからないか」


 そう思うと、なんだか一気に心細さが出てくる。でも、カレンさんとファルネーゼさんはそんな事は気にもしない様子だった。


「まぁ、橘が失敗することはないだろ。信じてるからな」

「大丈夫、例えマリーが失敗してもこっちでカバーするから」

「失敗前提で話を進めるな! 私はやり遂げるからな、見てろよ!」


 ファルネーゼさんは息を荒げながら、通路を左へと進んで行った。こちらを振り向くことはなく、ただ真っすぐに進むだけだった。その背中が、とても頼もしく思えるのは何故だろう。


「必ず生きて帰れよ、マリー」


 その背中に、カレンさんはぽつりと言葉を投げかける。多分、本人には聞こえていないだろう。きっとこれは、祈りのような思いなんだ。


「さて、こっちも負けてられないね。行こうか、小町」

「はい!」


 あたし達は、ファルネーゼさん達とは反対に、通路を右へ進んだ。通路の先は階段になっており、上層へと繋がっているようだ。


「それにしても、制御室っていうのはどこにあるんですかね?」


 肝心の制御室の場所はわからない。ぱっと見た感じ、この基地はかなり広そうだ。闇雲に探しても、見つけるには苦労しそうだ。きっと、発見する前に敵と鉢合わせるのがオチだろう。


「それなら、このデータに簡単な地図が入っていたよ。ルートは頭に入れてあるから、安心しなさいな」


 カレンさんは躊躇うことなく、階段を上り始めた。上りきると、またしても通路に出る。しかし、今度はコンクリートの壁に覆われた通路だ。所々にガラス窓があり、先ほどのロケットなどが見下ろせる。

 さっきまでは壁を伝うように設置されていた通路だったが、今は壁の中に作られた通路に居るようだった。

 基地内部に繋がっていた通路よりも、はるかに明るい。人影が出てこようものなら、すぐにわかるだろう。


「あの扉を通りたいんだけれど、早速警備兵がいるね」


 カレンさんが通路をちらりと覗きながら、小さい声でそう言った。

 あたしも少しだけ顔を覗かせてみる。カレンさんの言う通り、通路の先には扉がある。その扉の前に、銃を持った二人組が立っていた。

 ヘルメットに分厚めの防弾チョッキで、遠目では男か女かも判別できない。しかし、二人とも背中から首にかけて機械のようなものが見える。間違いない、バイオソルジャーがしていた装備だ。


「まさか、あれもバイオソルジャー?」

「きっと量産に成功した、と言っていたタイプだろうね」


 そうなると、厄介な相手が守りに付いている事になる。どうやって突破したものだろうか。

 悩むあたしとは対照的に、カレンさんの判断は早かった。


「こいつを使おう」


 その手には、ファルネーゼさんからもらった手榴弾が握られていた。

 あたしは頷き、ショットガンをしっかりと持つ。それを見たカレンさんは手榴弾の栓を引き抜き、バイオソルジャー達の足元に転がした。


「な、なんだこれは?」

「爆発するぞっ!」


 バイオソルジャーの慌てふためく声がする。そして、間髪入れずに爆発音が響いた。


「行くぞ小町!」


 その声を合図に、あたし達は一気に飛び出す。黒煙がまだ漂う通路を走る。守られていた扉は、爆発で破壊されていた。その傍で、バイオソルジャーの二人は項垂うなだれていた。


「ご苦労さん♪」


 動けない二人の間を、カレンさんが手を振りながら通り抜けていく。

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