第2話 死に笑う仮面⑥
死神さんを見ると、かなり距離を取っているようだった。これなら、隙を突いて逃げられるかもしれない。
でも、どうやって隙を突く? どちらかと言えば、こちらの方が隙だらけだろう。怪我をしているカレンさんは、自力で起き上がるのも辛そうだ。手を貸している間にも、死神さんは襲ってくるだろう。
「どうした、逃げないのか?」
血の気を感じさせない冷徹な声がする。あたしは精一杯に死神さんを睨む。でも、追い込まれたあたしがどれだけ凄んでも、効果は期待できないだろう。
「ならば、これで終わりにしてあげよう」
死神さんが駆け出した。鈍色の鎌が、獲物の血を欲しているように輝く。
「来ないで!」
あたしも、ただ見ているだけじゃない。拳銃を発砲し、必死に抵抗する。だけども、それは長く続かなかった。
引き金を引いても、手応えがない。弾が出ない。
「まさか、弾切れ⁉」
当たり前だ。さっきもあれだけ撃っていたんだ。そろそろ弾も切れるはずだ。でも、弾切れになるまでそんな事思いもしなかった。それほどあたしは、気持ち的に追い込まれているのだろうか。
死神さんは、すぐそこまで来ている。リロードしている時間なんてない。あたしには、何もできないのだろうか。
足が固まり、思考も止まる。どうすればいいのか、どうすれば助かるのか。疑問を投げかけるだけで、答えは出てこない。
「もう、ダメなの……?」
死神さんが笑っている。仮面をしていても、何となくわかる。勝利を確信し、獲物を狩れることに喜んでいる。あたしの命は、このまま冥府まで連れていかれてしまうのだろうか。
でも、この世はまだ『待った』と言う。遠くから、パトカーのサイレン音が聞こえてくる。それは間違いなく、ここに向かって来ている。
「なに?」
死神さんが動きを止めた。サイレン音に反応しているらしい。
「さしずめ、死神さんも警察は怖いかい?」
地面に頬をつけながら、カレンさんは笑った。その様子に苛立ったのか、死神さんは舌打ちをする。
「何故、警察が⁉」
「当たり前だろ。発砲音がこんなにも出ていたんだ。これで警察が動かなきゃ、いったい
サイレン音はさらに近づく。恐らく、倉庫のある敷地には入って来ただろう。ここまで着くのも、時間の問題だ。
「くそっ!」
そう吐き捨てると、死神さんは急いで倉庫を後にした。逃げる時もあっという間だ。あの速さは、追いかける気にもなれない。
「助かりましたね、カレンさん……」
「まったく、ハラハラさせてくれるよ君は」
先ほどまで余裕そうな笑みを向けていたカレンさんだったが、今は苦しそうな表情をしている。死神さん相手に、思いっきり見栄を張ったのだろう。
あたしも気が抜けたのか、その場にへたり込んでしまった。今回は運よく助かった。けれども、いつ死んでもおかしくなかった。あたしのミスが、カレンさんを傷つけ、この状況を作ってしまった。
反省すべき点が多すぎて、頭が痛くなりそうだ。
その後、カレンさんは病院へと運ばれた。あたしも付き添おうとしたのだが、カレンさんに止められてしまった。
「ソフィアちゃんが事務所で待っている。依頼人を待たせてはいけないだろ?」
そう言うので、あたしはそのまま事務所に戻った。
事務所では、ソフィアとリンちゃんが大人しく待っていた。あらかたの状況を説明し、二人には帰ってもらった。今ここにいても、できる事は何も無いだろう。
その日の夜。カレンさんに連絡を取った。幸い、怪我は酷くなかったらしい。傷は浅く、しばらくすれば治癒するだろうとのことだった。でも、安静にしていろとお医者さんには言われたらしい。当たり前だろう、傷口が広がってしまうだろうから。
そんな訳で、今晩だけカレンさんは入院することになった。本人は凄く帰りたがっていたけれど。
次の日。あたしは早朝から、学校近くの閑静な住宅街に出かけていた。狙いはただ一つ。
「ノース君はまだかな」
彼の通学路をソフィアから聞き出し、待ち伏せをしていた。理由は勿論、なぜ倉庫にいたのか、死神さんとの関係を問い詰めるためだ。
もしかしたら、ノース君が死神さんに指示を出していた可能性だってある。真犯人は彼だったというオチは、十二分にあり得るのだ。あたしは、その場で拘束するつもりの気構えで待っていた。
「ん? あれは」
見張っていた曲がり角から人影が出てくる。あの銀縁眼鏡に、スポーツ刈り。間違いなく、あれはジョン・ノース君だ。
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