第2話 光の切れ間⑥

「まとめながらあたしも考えたんですが、やっぱり共通点らしいものなんて見当たらなかったですよ」


 きっと、警察だって必死に考えたはずだ。それでも、共通点は見つけ出せなかった。本当にあたし達だけで、それを発見できるのだろうか。


「う~ん……」


 カレンさんは、顎に手を当てながら、次々とリストを確認していく。

 性別も年齢もバラバラ。仕事や趣味、住んでいる地域まで一貫性がない。この人達を殺した目的は、いったい何なのか。


「ん? まさか」


 カレンさんが片眉を上げた。そして、物凄い勢いでスマホを操作し始めた。

何か文字を打ち込んで、検索エンジンで調べているようだ。次から次へと打ち込んでいく。それに合わせて、被害者リストも次の頁へと移っていった。

 どうやら、被害者一人一人の何かの情報を調べているらしい。


「何かわかったんですか⁉」


 あまりにも凄い気迫に、あたしは訊ねずにはいられなかった。しかし、カレンさんは答えることなく指を動かし続けた。


「これは……!」


 そして、結論に辿り着いたらしい。スッキリしたような表情で、あたしとリンちゃんを見てきた。


「共通点、とはハッキリ言えないかもしれない。それでも、これは何かがありそうだね」

「なんだったんですかそれは?」


 あまりにも焦らすような言い方をされるので、思わず食い気味に訊ねてしまう。カレンさんは、被害者リストを見せてきた。そして、一か所を指差す。それは、職業欄だった。


「茜村善蔵以外、全員がGテクノロジーの関連や提携企業の社員だったんだ」


 予想外の単語が飛び出してきた。Gテクノロジーだ。

 この街、GシティはGグループと呼ばれるグループ企業が大きな力を持っている。その一角がGテクノロジーだ。

 主に、科学分野を取り扱う企業だ。その規模は大きく、関連会社や提携企業が多くある、らしい。あまりあたしは詳しくないのだけれど。


「Gテクノロジーって、あの……⁉」


 流石のリンちゃんも、これには驚いている。当たり前だ。この街に住む人間なら、必ず一度は聞いた事があるだろう。


「今、確認の為に記載してあるすべての企業を調べてみた。やはり、全部そうだったよ。必ずGグループに関わりのある企業ばかりだ」

「でも、Gテクノロジー関係となると、かなりの人が引っかかりますよね。たまたまって事はないんですか?」


 母数が大きければ、その分確率も増すだろう。しかしカレンさんは、ふふっと鼻で笑った。


「この数が全部たまたまってかい? 昨日殺された男性の社員証も確認済みだ。私には、これが全部たまたまだとは思えないね」


 そう言われれば、なんとも言えない。たまたまで片付けられる事ではない。警察が見つけられなかったような共通点なんだ。それに賭けるしかない。


「そうなれば、Gテクノロジーとスタッカートの関係と言い換えても良いかもしれない。この両者に、いったいどういう関係があるのか」


 一つの謎がほぼ解けたが、また新たな謎が浮かび上がってしまった。しかし、あたしには少しばかり心当たりがあった。


「Gテクノロジーと言えば、変な噂話がありますよね?」

「噂話?」


 カレンさんもリンちゃんも、興味深そうにこちらを見ている。こんなタイミングで切り出されたのだ、興味が沸かない訳がない。


所詮しょせんは、ネットでよく出回っているようなフォークロアなんですけど。秘密の研究をしているとか、地下には核兵器が隠されてるとか、極悪な人体実験が繰り返されてるとか、裏では兵器開発を行ってるとか」


 どれも実に眉唾な話ばかりなのだが、何故かGテクノロジーの変な噂は絶えない。調べたサイトのログや更新日時から、かなり昔からそういう噂が語り継がれているようだった。まるで、学校の七不思議だ。


「確かに、ありきたりな噂話ではあるな」

「アタシも聞いた事あるのばっかりだったわ」


 二人の反応は微妙だった。昔から語り尽くされている話こそ、嘘くささが増すものだ。やっぱり、都市伝説はどこまでいっても伝説なんだろう。


「それにしても、どうして茜村善蔵だけ資産家なのかしらね?」


 リンちゃんは、不思議そうに首を傾げた。


「茜村以外の共通点は、きっと合ってるはずなんだよ。そうなると、茜村の資産家という立場が何か理由なのか……?」

「資産家ですし、やっぱりGテクノロジーに出資していたからとか?」


 しかし、カレンさんは首を横に振る。


「Gテクノロジーほど大きな企業なら、出資している人間なんて山ほどいるはずだ。あまりにも多い。もし、それがスタッカートの狙いなら、途方もない計画ってことになるね」


 仮に関係した人間全てを殺害する気なら、大勢の出資者。そして、大勢の従業員を殺害するという事になる。それはあまりにも無謀で、無計画だ。

 目的と言ったからには、もっと絞り込めるものがあるはずだ。


「まぁ、手札からわかるのはそんな所だろう」


 小さなため息を吐くと、カレンさんは大きく伸びをした。そして、あたしの肩を叩いた。


「小町、スタッカートの顔は覚えているかい?」

「はい、なんとなく」


 暗がりだったし、あんな状況だったから、明確に思い出せる訳じゃない。でも、それなりには覚えているはずだ。


「よし、なら被害者が働いていた会社に、スタッカートと同じ顔の男がいるか調べて欲しい。ホームページでも、写真でも構わない。とにかく探して」

「わかりました」

「私は、マリーのところに行ってくる。警察にある顔写真を、ありったけ漁ってくるよ」


 そう言うと、カレンさんはすぐ事務所から飛び出して行った。


「しっかり成果出しなさいよ~」


 リンちゃんは、カレンさんの背中に向かって叫びながら見送っていた。

 果たして、スタッカートの正体を突き止められるだろうか。

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