17▷三十一歳 結月上旬 - 2
全員が不安げな面持ちで、司祭様の前に腰掛ける。
一番前で私達の方を向いて、少し溜息を吐きつつ司祭様が話してくださった内容に……多分、私達三人が最も驚いただろう。
「全領地の教会での……神従士の配属再編……ですか?」
アルフアス神官言葉に、テルウェスト司祭は頷く。
そして、どうしてそのような話になったのかを順を追って話してくださった。
それに伴い、周辺の町の地盤強化や建物の建て替えなどが進められ、町の場所自体が少し変わったり、人々の移住などが多く発生した。
町の人数が変われば、教会も役割や求められることが変わる。
今までとは違って子供達の面倒をみる女性司祭の教会が増えたり、神従士の数や階位が偏っている教会などが再編されるのだという。
そしてセラフィラント、リバレーラ、ルシェルスなど、多くの移民受け入れがあった領地で増えた第四位以下の神従士……所謂、神務士達が多くなり他領から公平性に欠く……という意見があがったのだという。
ここで、ラトリエンス神官が首を捻った。
「公平性……とは? 何が、どう、公平でないというのでしょうか? 全く意味が解りません」
「ええ、私も、今そのことをお知らせくださったレイエルス神司祭も、何が何やらといった感じでしたよ」
ひとつの教会にいる神従士の数が定まっていないのが悪いとか、受け入れる数の多い教会に補助金が回り過ぎるとか……確かに意味が解らない。
テルウェスト司祭は怒っていらっしゃるのか、呆れていらっしゃるのか……両方、だろうか。
「まぁ、そんな下らないことがきっかけだとしても、私も別に再編に異議があるのでもないのです……実際、神従士達の中には差別的な考え方が横行し、人数が多い教会ほど司祭の目を盗んでの暴行紛いの虐めもないとは言えないようですから」
だけどそれは司祭が怠慢なだけですよ、とテルウェスト司祭は吐き捨てるように仰有る。
「ただ……問題なのは『領地の中での異動』だけでなく『領に拘らない異動を検討』とした点なのです。神務士……神従士四位以下は、希望すら出すこともできずに家族と遠く離れた領地になる可能性がある」
そうだった。
移動先の希望が出せるのは、神従士第三位以上だった。
それに帰化民や半籍人の場合は、家族が教会口座からの引き出しをできるようになるのはその階位からだ。
第四位以下だと遠くに行くのを、嫌がる人も多いだろう。
「しかも、今まで暮らしていた場所と気候や食べ物が違い過ぎる場合などの補助すら考えられていないというのが……腹立たしいのですよ」
これも確かに、そうだ。
私は北側のアーメルサスから同じく北側のマントリエルに入れたから、まだ馴染みがある食材もあった。
気候も夏場ではあったが、さほどつらくなったと記憶している。
ガウリエスタの南方でミューラに近いロムルスという所にいたと言っていたシュレミスは、気候としてはリバレーラの南側と変わらないからそこで神務士になったと言っていた。
雪など殆ど降ることもなく、身を切るほど冷たい風が吹き付けるでもなかった土地で育ったから……と言っていて、シュリィイーレの厳しい冬に並々ならぬ警戒をしていたと言う。
当然、食材が違うことは、シュレミスが持ってきた調味料などからもうかがい知ることができる。
あまりに違い過ぎる場所で暮らすことのつらさは、心の持ちようだけでは乗り越えられないだろう。
だが、身体に合わないかもしれない土地に、家族達にまで付いてきて欲しいとは言えない。
家族や心の支えとなる誰かがいなければ、心にも身体にも負担になると解っている場所で挫けてしまう者だって現れるのではないだろうか。
「……もし……そういう場所に移されて挫けてしまう者が現れたら……その教会の司祭様の汚点となってしまいそうで……怖いです」
私がそう呟くと、テルウェスト司祭が目を見張るようにこちらを向いた。
「なるほど……そうかもしれませんね。その辺りで揺さぶれば、バカみたいに格とか面子とか言っている連中は警戒しそうです」
「神従士の数で教会の格がどうのなどと自慢する神官って、いますからね……僕も何度、そういう奴等の頬を叩きたくなったことか」
ガルーレン神官が困った奴だな、と言うように呟く。
「ミオトレールス神官は、時々過激だな」
「実際には、大してやっておりませんよ?」
……『大して』ということは、何度かはあるのだろうか。
司祭様も、気持ちは解りますが駄目ですよ、と窘めつつも笑顔だ。
腹に据えかねるほどのこと……どうやら、どなたにも思い当たる節があるらしい。
だが、再編自体をしないことにはできないと仰有るので、どのような条件になるかの話し合いが
不思議なことだが、私はどこでもいいや、という気分になっていた。
ラーミカに戻れなくても、マントリエルから離れることになったとしても……どこでも、シュリィイーレでないのなら変わらない、と。
それほどまでに、私はこの町が好きになっているのかもしれない。
留まることなどできないと、解っているけれど。
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