第21話 三十一歳 夏・望月-11

 少しだけ、小首を傾げるように立っているガイエスが軽く声をかけてくる。

「よう」

 俺も立ち上がって答える。

「明日、だよな?」

 もの凄く素直に、言葉が出る。


「そうだよ。決めたか?」

「ああ」


 それだけで、ガイエスは村長に挨拶に行く、とその場を離れた。

 子供のひとりが、俺の上着の裾を引っ張る。

「あの人、皇国の人だよね?」

「一緒に皇国に行くの?」

 もうひとりが少しだけ淋しそうに尋ねる。


「……どうかな……一緒、ではないかもしれない」


『許される範囲でだけ』と言っていた。

 その中に『皇国へ連れていく』は含まれないだろう。

 でも、それでいい。


 この国を出ることは、俺が決めて俺の足で出なくては意味がないことだ。

 ここまで無事に連れてきてくれただけでも、考え、決意する時間をもらえただけでも感謝している。


「また、帰ってくる?」


 ひとりの子がそう言ってくれた。

 帰って。

 来られるだろうか。


「……必ず、戻りたいと、思っている」


 きっと、この子達は俺のことなど忘れてしまうだろう。

 たった四日間の、ただ神話のことだけを語っていた通りすがりの俺のことなど。

 だけど、その一言をくれただけで、俺は充分だ。


 必ず、俺の意志で戻ってこよう。



 ガイエスは村長の所にいったあと、東の森へ出掛けたという。

 鉱石掘工師と聞いたな、そういえば。

 この辺の鉱石って……何を採るというのだろう?


 電気石が採れる場所なんて、もう東の森にはないと言われている。

 今は南西のダティエルト山脈以外では、電気石の採掘は行われていないはずだ。

 それとも、皇国人にとってそれ以上に価値のある石が転がっているのだろうか。


 薄暗くなった空を眺めながら、小屋に戻ると夕食が運ばれていた。

 明日にはここを出ていくのだから、運んでくれてた人にお礼を言おうと思っていたのにすれ違ってしまった。


 そうだ、今の自分をもう一度確認しておこう。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 通称 アドー

 名称 ラドーネス*****/投擲士とうてきし

 年齢 31 男

 在籍 ドォーレン

 父   

 母 

 魔力 645

 

 耐性魔法・第一位 俊敏魔法・第一位

 水流魔法・第二位 

 強化魔法・第三位 風力魔法・第三位


 【適性技能】  

 〈第一位〉 

 投擲技能 計測技能

 〈第二位〉

 体術技能

 〈第三位〉

 水性鑑定 唱述技能 毒物鑑定

 登攀技能


 裏書

 聖神二位

 冒険者組合 銀段三位

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 魔力が少し増えた。

 汎用の【水性魔法】から並位の【水流魔法】になった魔法が、第二位になったのは嬉しい。

【強化魔法】も増えたんだな。

登攀とうはん技能』『唱述しょうじゅつ技能』……?

 初めて見た……どんな技能なんだろう。


『毒物鑑定』!

 緑属性の技能だ! 

『毒性鑑定』だったら黄属性だったのにな……

 いや、贅沢いっちゃいけないな。

 これで、どこまで通用するのだろう。

 ひとりで旅をすることが、できるだろうか……


 いや、できるかどうかじゃない。

 やるんだ。


 やっと、俺が自分自身で決めることができたのだから。



 明け方……といってもまだ暗い時間、村の広場の方だろうか……声がする。

 ぼんやりとした意識の中で、次第にその声が何を言っているのかがはっきり聞こえてきた。


「ここに、別の町から来た者がいるはずだ!」


 別の……?




 ********


『緑炎の方陣魔剣士・続』弐第99話と一部リンクしております。

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