59ページ目.ドレスを着た小悪魔

 オレが体育館に着いたとき、運良くちょうどライバー部主催のファッションショーが始まるところだった。


 部員からファッションショーに出演するモデルの名前と、いくつかの服は手芸部がデザインして作ったことがアナウンスされた。


 アナウンスが終わると、やがて体育館が派手な照明で彩られた。


 その光の中、体育館の舞台袖から登場したのはライバー部部員達。


 彼女達は体育館の真ん中に設営されたランウェイへと歩いてくる。


 それと同時に、会場に集まった女子達から「キャーッ!」という悲鳴に近い歓声が上がった。


 ライバー部部員は黒のゴスロリ風のドレス、大人っぽい赤のカクテルドレスなど、普段、校内では目にしない服装だった。


 オレと同じ高校生なのに、なんだかずっと大人っぽい。


 やがて観客の歓声が一際大きくなった。


 その歓声を起こした主は、やはり阿舞野あぶのさんだった。


 いよいよ彼女の登場だ。


 阿舞野さんは、花魁風の着物をミニスカートにしたようなドレスを着て、赤い和傘を差して現れた。


 髪型もいつものポニーテールではなくサイドテールにして赤いリボンを付けている。


 一見、親や先生が見ると、高校生らしくない下品な服なのかもしれないのに、彼女は見事にかっこよく着こなしていた。


 照れがなく堂々としているからだろうか。


 彼女は足を肩幅に広げて前屈みになり、小悪魔のように笑顔でチロリと舌を出した。


 かわいい&かっこいい。


 じゅうぶんプロでも通用するような気がする。あくまで素人目だけど。


 いつかこんな高校の文化祭じゃなく、本物のファッションショーに出演させてあげたいな。


 でも、そのためにオレができることなんて何も無い。


 ファッションショーは、続いて我が群光学園の制服アレンジのコーナーへと移った。


 阿舞野さんは今度はいつもの紺のミニスカートに、上は赤のスタジャンを着てブラウンのキャップを被っている。


 髪はツインテールだ。


 彼女は笑顔でスカートから伸びる長い足を斜めに投げ出し、腰に手を当てポーズを決めていた。


「わー、かわいい!」と、観客から次々に歓声が上がる。


 オレももっと見ていたいけど、嵯峨に悪いからそろそろ戻るか。


 オレは他の観客の邪魔にならないよう、体育館をこそっと抜けて、漫画部のホラーノベルハウスへと戻った。


 ファッションショーとは一転して、地味な漫画部の出し物。


 お客さんもまばらだし。


 ときたま、来たお客さんが「キャーッ!」という悲鳴が上げる点は同じかもしれないけど。


 しばらくホラーノベルハウスの番をしていたら、退屈になってきた。


 出口付近でカーテンの裏の椅子に座ったオレがあくびをしたとき、急に背後から目を掌で覆われた。


「キャーッ!」


 人を驚かす役のオレが悲鳴を上げる。


「だーれだ?」


 と、オレに問いかける声。


 この声は……もしかして阿舞野さん?


 いや、もしかしなくても、これは阿舞野さんの声だ。

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