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 事前にオレが想定していたとおり、うちのクラスのメイドカフェには、開店早々、行列ができた。


「いらっしゃいませ〜♪」


 メイド役の女子達の声が教室内に響く。


 阿舞野あぶのさんは早速、積極的に各テーブルへと注文を聞きに回っていた。


「うーめろのハンバーグホットサンド3つ、お願いしまーす!」


 時間とともに注文が次々に入る。


 それに連れてオレもトーストにハンバーグをはさむ役のオレも忙しくなった。


 やっぱり阿舞野さん目当てのお客さんが多いので、彼女はテーブルを回るたびに声を掛けられたり話しかけられたりする。


「うーめろ、大好きです!」


「マジで!? 超ありがとー!」


「生うーめろ、マジ可愛い!」


「ヤバい、超嬉しい! 応援、よろしくぅー!」


 声を掛けてきたファンそれぞれに対応する。


 人気を維持する為にきめ細かいファンサービスは大切なのかもしれない。


 でも大変だろうな。


 漫画だけ描いていればいいオレにはわからない苦労だ。


 部活の方の出し物と掛け持ちの人がいるので、担当は交代制にした。


 阿舞野さんは午後からライバー部のファッションショーに出なくてはいけない。


 でも阿舞野さんがいなくなると、メイドカフェのお客さん、激減しそう。


 オレも漫画部の部長として、ラノベ部とコラボのホラーノベルハウスの方へ顔を出さなきゃ。


 と言っても、あれはただお客さんに部屋の中を回ってもらうだけだから、人手はいらないんだけど。


 出口でお客さんを驚かす役を交代でやるぐらい。


嵯峨さが、お待たせ。オレが変わるよ」


 オレはホラーノベルハウスをやってる教室へやってきた。


「別にいいよ。うちのクラスの出し物は暇なものだから、オレがいなくても問題ないし」


「そういや嵯峨のクラスって何やってるんだっけ?」


「三国志の歴史」


「はあ?」


「まぁ、由良ゆらもそーいう反応になるだろ。クラスでさ、超三国志好きがいて、あんまり熱く語るもんだからさ、みんなも他の案を出さないしで、結局、それに決まっちゃったわけ。三国志の歴史描いた絵巻物とか、武将のパネルとか、マニアしか見にこないよ」


「それでクラスの方はすることがないわけか」


「そ。だからこっちで出てくるお客さんの顔をウェットティッシュで撫でる方が気楽なのさ」


 このノベルホラーハウスの仕掛けとは、出口のところで長い棒に吊り下げた冷たいウェットティッシュでお客さんの顔をペチャってやるってもの。


 この役に一人いるのだ。


 これもラノベ部の部員と漫画部の部員で、交代でやっている。


 阿舞野さんの方はどうだろう?


 体育館のファッションショー、もう始まったかな?


 どんな服を着るんだろう?


 きっと人気ライバーとして多くのファンの視線と歓声を浴びているんだろうけど。


 緊張で転けたりして怪我してないだろうな?


 彼女のことだから大丈夫だと思うが……。


「嵯峨、悪ぃ! もう少しここ任せていいか?」


 オレは嵯峨に両手を合わせ頼む。


「あ? あぁ、別にいいけど……」


 居ても立っても居られなくなったオレは、脅かし役を引き続き嵯峨に任せ、阿舞野さんのファッションショーを見に、駆け足で体育館へと向かった。

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