57ページ目.メイドめぐり

 もうすぐ文化祭が始まる。


「うずめ目当ての人、超来てるみたいだよ! 『うーめろ』の名前がプリントされたシャツ着てる人、大勢校門の前に並んでるって!」


 クラスメイトの女子が言う。


「マジで!? じゃ張り切っていきますか!」


 そう言って、阿舞野あぶのさんはメイド役の女子達と一緒に、更衣室として使われている教室へと向かった。


 こりゃ、うちのクラスのメイドカフェは忙しくなりそうだな。


 メイドとなった人気ライバーの接客をめぐり、お客さんが殺到しそう。


 オレは調理担当だから「うーめろのハンバーグホットサンド」を作るの頑張らないと。


 まあ、同じく調理担当の女子が焼いてくれた市販のハンバーグをトーストに挟むだけなんだけど。


 でもそんなに人が殺到するなら材料が足りるだろうか。


 費用の面からそこまでは買い込めていない。


 でも、この人気がいつか阿舞野さんの夢実現に繋がってほしいな。


「お待たせー!」


 声のする方へオレが目を向けると、白黒のメイド服に身を包んだ阿舞野さんがいた。


 オレは思わず息を飲む。


 とても可愛いメイドさん。


 頭につけた白いカチューシャも、とても愛らしい。


「キャー、うずめ、超似合ってるんですけど!」


 メイド姿の阿舞野さんを見た女子が感嘆の声をあげる。


「マジで!?」


 そう言って阿舞野さんはミニスカートの裾をつかんで広げポーズを取った。


 確かに阿舞野さんは足が細くスタイルがいいからか、メイド服も着こなしてしまう。


 こんなメイドさんがいるカフェなら、通い詰める人がいたとしてもおかしくはない。


 着替えも終わり、クラスのみんながそれぞれの担当の段取りを確認して、もうまもなく文化祭が始まるという時、誰かがオレのシャツをこっそり引っ張った。


 目を向けると阿舞野さんだった。


「……ゆらっち、こっち来て」


 小声でオレに言う。


 何の用かはわからないけど、とりあえずオレは無言で頷いた。


 阿舞野さんに連れられて教室を出ていくと、人気の無い階段の踊り場へと連れて行かれた。


「ここでいっか。ねぇねぇ、ゆらっち。文化祭の記念に、前の水着の撮影みたくメイド服姿の写真撮ってよ!」


 振り返った阿舞野さんがオレに言う。


「えっ、えっ?」


 思わず戸惑うオレを、


「ほら、早くしないと誰か来るかもだし、メイドカフェも始まっちゃうよ!」


 と、阿舞野さんはうまく急かす。


「わ、わかった!」と、オレは慌ててスマホを取り出した。


 オレがスマホを構えると、次々とポーズを決める阿舞野さん。


 さっき教室で見せたスカートの裾をつまみ広げるポーズや、指でハートを作ってみたり、前屈みになってみたり、ミニスカートで階段に座ってみたり。


 オレは夢中でシャッターを押す。


 学校の階段で行う、二人だけのメイド撮影会。


 短時間だったけど、けっこう枚数は撮れた。


「こんなもんかな? そろそろ教室に戻ろうか? でないとアタシとゆらっちがいないこと、みんなに噂されちゃうかも」


「そうだね」


 オレも同意する。


 オレがスマホをポケットにしまっていると、阿舞野さんがオレの耳元に口を近づけてきた。


「後で撮った画像、ワタシに送ってくださいね、ご主人様」


 彼女は普段より高い声でオレに言う。


 その言葉を聞いた途端、頭からつま先までオレの全身を走る甘い快感。


 なんだいまの!?


 なんだかゾクゾクした。


 メイド、恐るべし。

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