54ページ目.乙女の密談

 ふわりちゃんとともに駅へ続く通学路を歩く。


 待ち伏せしてまでオレと一緒に帰ろうとしたのに、ふわりちゃんは道中、無言のままだ。


 ここはオレの方から話題を振った方がいいのだろうか。


「そういや以前、作ってくれた弁当、改めてお礼言うよ。ありがとう。ふわりちゃん料理が上手いね。漫画以外の道もあるんじゃない?」


 話題に乏しいオレは、結局、ふわりちゃんが作ってくれた弁当のことしか振れるネタが無かった。


「いえ、あれぐらいたいしたことないです。

 でも先輩が喜んでくれたなら嬉しいです。わたしも先輩のおかげで阿舞野あぶの先輩と知り合えて、自分を変えられましたし」


 阿舞野さんがふわりちゃんにとって良い方向へ作用したようで、紹介して正解だったとつくづく思う。


「うんうん、ふわりちゃんも初めて会ったときよりもすごく魅力的になったよ」


 オレは褒める。


「ありがとうございます。それは嬉しいのですが、そのせいでちょっと困ったことがあって……」


 ふわりちゃんが俯く。


「困ったこと?」


 魅力的になって困ることなんてあるのだろうか?


「はい。阿舞野先輩の配信に出て前髪を上げてから、なんか男子から告白されることが続いてるんです。今までそんなことなかったのに……」


 どうやらふわりちゃんはモテ女子になってしまったようだ。


 確かに隠していた目を出したことでふわりちゃんが美少女だと校内にバレてしまった。


 そりゃ惚れる男子も多いだろう。


「そうなんだ。でも、それはいいことなんじゃない?」


 オレは答える。


「はぁ、そうでしょうか。断ってはいるんですが、なんか断るのって相手をがっかりさせてしまうようで、わたし辛くて……。わたしなんかを好きになってくれるのはありがたいことなんですが……」


 ふわりちゃんの声がか細くなる。


「いまふわりちゃん、付き合ってる人は?」


「いません」


「それなら告白してきた男子の中で好みのヤツと付き合ってみては?」


「いえ、それは……」


「もしかして好きな人がいるとか?」


 ふわりちゃんはまた俯いてしまい、返事をしなかった。


 もしかして当たったとか?


 中身は陰キャのふわりちゃんも恋をするんだな。


 ふわりちゃんのタイプの人ってどんな人だろう。


「でもモテるっていいことなんですよね」


「世間一般的には」


 残る夕陽と広がる夜の闇が混ざった空の下、二人でそんな話をしながら歩いていたら、やがて駅に着いた。


「それじゃ、わたしは向こうの方角なので」


 ふわりちゃんとオレの家は反対の方角だ。


「あの、もしふわりちゃんに好きな人がいるなら、今のふわりちゃんが告白したらきっとうまくいくよ」


 オレは励ます。


「いえ、そんな。わたしなかんかが勝てる相手ではないので」


 ふわりちゃんはそう言って微笑む。


 勝てる相手じゃない?

 誰かライバルがいるのかな??


 オレが首を傾げていると、彼女は小さく手を振って反対側のホームへと向かっていった。

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