40ページ目.一瞬の花火になれ

 空もすっかり暗くなり、そろそろ花火が打ち上がる時間になった。


 屋台が並んでるので、三人でカキ氷を買って食べる。


 三人ともイチゴで揃えた。


「うっま! カキ氷、超美味しいんだけど! 夏に冷たいものはやっぱ黄金の組み合わせだよねー!」


 阿舞野あぶのさんは笑顔でカキ氷を頬張る。


「本当ですね。同じ氷なのに家で食べるのより、花火大会で食べる方が美味しく感じます」


 ふわりちゃんも喜んでいる。


 味覚というものは食べるものの味だけでなく、場所や雰囲気も大事なようだ。


 そして誰と一緒に食べるかというのも……。


 しばらく三人でカキ氷を味わっていると、太鼓を打ち鳴らしたような音を立てて、一発目の花火が上がった。


「やっば! 超綺麗くない!?」


 阿舞野さんのテンションが上がる。


「素敵ですね」


 ふわりちゃんは目が隠れるほど前髪が長いので、花火を見るのに邪魔じゃないのかと思ったが、一応楽しんでいるようだ。


 次々と打ち上がる花火にオレも見惚れる。


 花火って一瞬で消えてしまうけど、その一瞬の為にすごい時間を掛けてるんだろうな。


 どんな色にするかとか、火薬の配合とか。


 漫画も同じだ。


 メチャクチャ構図に頭を悩ませ、時間を掛けて絵にしても読まれるのは一瞬。


 でもその一瞬で読む人は面白いって思ったり感動したりする。


 描きたいシーンだけじゃなく繋ぎのコマも描かなきゃいけないから、漫画ってタイムパフォーマンスは悪いのかもしれない。


 だけど、時間を掛けても花火のように見る人を楽しませる一瞬に懸けて漫画を描こうと思った。


 ライバーも同じなのかな。


 人を楽しませたり感動させたりっていう点は花火や漫画と同じだろうけど。


 阿舞野さんなら花火のようなライバーになれるはず。


 オレはふと、隣の阿舞野さんの方へ目をやった。


 彼女と目があった。


 何故か彼女もオレの横顔を見ていたようだ。


「どうした?」と、オレは首を傾げる。


 すると阿舞野さんは戸惑った感じで、


「あっ、いや、花火綺麗だね」


 と言って視線を空へ向けた。


 今度はオレが阿舞野さんの横顔を見つめる。


 花火に照らされる整った彼女の横顔は、夜空を彩る花火に負けないほど、眺めていたいものだった。

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