39ページ目.黄色い浴衣
ふわりちゃんを花火大会には
特に問題なく彼女はOKしたそうだ。
ふわりちゃんの本来の性質は社交的なのかも。
過去のトラウマが本来の自分に蓋をしているだけで。
阿舞野さんと関わることでその蓋が外れるのなら、それはいいことなんじゃないかな。
……なんて本人になり代わり勝手に思ってしまう。
そして迎えた花火大会の日。
待ち合わせ場所にかなり早めに着いてしまった。
夕方といえども、夏なので空はまだ明るい。
なんとなく落ち着かない気分で、ふわりちゃんと阿舞野さんがくるのを待つ。
「お疲れさまです」
オレが着いてから間をおかずに、ふわりちゃんがやって来た。
彼女も早めに来てしまったようだ。
ふわりちゃんは紺の浴衣姿だった。
お祭り用の格好をしている。
一方のオレは、こんなお祭りなんか今まで誘われたことがなかったので普段と同じ私服。
イベント専用の服を持ってないという事実が、ちょっと恥ずかしくなった。
それにしても、制服以外の彼女を見たことなかったので、つい見入ってしまう。
前髪は下ろしたままだけど。
「なにか変……ですか?」
ふわりちゃんは不安そうにオレに聞く。
「いやっ、全然変じゃない。むしろ似合ってる。あの、制服以外のものを着てるところ見たことなかったから……」
オレは慌ててふわりちゃんを安心させようとする。
「そうですね。特に浴衣なんて年に一回、この日ぐらいしか着ないので」
ふわりちゃんはいつもの少し早口気味の口調で言うと、笑った。
「お待たせー!」
そんな時、軽い聞き覚えのある声がした。
ふわりちゃんとオレ、二人が声の主の方へ目を向ける。
そこにいたのは、言うまでもなく阿舞野さんだった。
阿舞野さんは薄い黄色の浴衣を着ている。
ポニーテールをまとめるシュシュも大きな黄色い花。
「わー、ふわりちゃんも浴衣着てるし! 超似合ってる! マジ可愛い!」
阿舞野さんはふわりちゃんを褒めた。
「あ、ありがとうございます」
ふわりちゃんは照れている。
「アタシのどう? 似合う?」
阿舞野さんは浴衣の袖を広げてポーズを取った。
相変わらず自分を可愛く見せるのには長けている。
「えっと……、う、うん、すごく……、似合ってる」
オレも照れながら答えた。
「マジ!? ゆらっちにそう言ってもらえると超嬉しい!」
阿舞野さんは喜んでいる。
オレは言い慣れて無い言葉を口にして、なんだか気恥ずかしくなったので、話題を変えることにした。
「あ、あの、浴衣って自分で着れるの?」
二人に聞く。
「わたしはお母さんに着付けやってもらいました」
ふわりちゃんが答えた。
「アタシは自分で着付けやったよ」
阿舞野さんが胸を張る。
「えっ、着付けできるんですか。羨ましいです」
「覚えたらカンタンだし♪」
けっこうなんでも出来るんだな、阿舞野さんって。
「それじゃ三人で花火見物する良い場所、探しに行きますか。さあレッツゴー♪」
阿舞野さんは右腕を高くあげた。
ノリノリの阿舞野さんは率先して歩き出す。
リーダーシップもあって着付けもできる阿舞野さん。
しかし、前を歩く阿舞野さんの後ろ姿を見ると、黒っぽい下着をつけてるせいか、薄い黄色の浴衣から彼女のはいてる下着の色がほのかに透けている。
思わず目を見開いてしまうオレ。
完璧っぽく見えて、こういうちょっと抜けてるところも可愛い。
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