41ページ目.配信者うーめろの献身

 7月のラスト一週間。


 ファッション雑誌「MeMee」のモデル権を賭けたライブ配信アプリ「showtime」のイベントが明日から始まる。


 当然、阿舞野あぶのさんもエントリーしている。


 っていうか、彼女はこのイベントのために友達との夏休み旅行も行かなかったのだ。


 各予選ブロックの上位三人が8月の決勝に進むそうだが、参加者を見てみるとひとつのブロックに12名いた。


 ブロックがAからHまでの8ブロック。


 合計で96人が参加してるのか。結構多いな。


 この中で優勝した1人だけにモデル権が与えられるようだ。


 これだけの人数を勝ち抜くのは阿舞野さんといえども簡単じゃないような気がする。


 それでもオレも、多少なりとも阿舞野さんの順位上げに貢献しようと思う。


《ゆらっち、ごめんだけど今日の昼の配信だけは視聴強制だから。見逃し厳禁だよ!》


 そんなイベ前日、阿舞野さんからメッセージが届いた。


 阿舞野さんが自分の配信を観てほしいと要求するなんて初めてだ。


 今日は何があるんだろう?


 イベントは明日からだし。


 もちろん言うまでもなく、どんな配信なのか気になるので観ることにする。


 配信の時刻になり、オレのスマホの画面に阿舞野さんが映った。


『やっほー! みんな今日もうーめろの配信に集まってくれてありがと!』


 スマホの小さな阿舞野さんが元気に挨拶する。


『明日からMeMeeのモデル賭けたガチイベが始まるんだけど。それでさー、今日は学校の友だちに応援ゲストに来てもらっちゃいましたー!』


 阿舞野さんがそう言うと、続いてオレのスマホに現れたのは、


『あ、あの、みなさんこんにちは。えっと、わたしは……ふぅです」


 なんと、前髪を上げたふわりちゃんだった。


 今日がふわりちゃん出演の日だったのか。


 ちょっと顔が強張って緊張気味だ。


 コメント欄には「超美少女!」「マジかわいい!」「可愛い子はともだちもかわいい」とふわりちゃんの見た目を称賛するコメントが流れていた。


『今日は来てくれてありがとー!』


 阿舞野さんが雑談を振るも、ふわりちゃんは緊張のせいで、彼女の話にほぼ相槌を打つだけだった。


『ところでさ、ふぅちゃんの趣味ってなんだっけ?』


 阿舞野さんがふわりちゃんに質問をぶつける。


『えっ? あっ、あの漫画読むことと描くことと、アニメを観ること……です』


 身を縮こまらせてふわりちゃんは答えた。


『アニメは、なんてアニメにハマってんの?』


 阿舞野さんはふわりちゃんが話しやすいように、得意な話題へと気を配っているようだ。


『えっといまは、その、美少女同心アスカ事件帖……です』


『あー、それあたしも知ってる! マジ面白いよねー』


 阿舞野さんも同意する。


 コメント欄も「あれマジで好き!」「あれは面白いよ」「いま話題だよね」と同意の意見で占められていた?


『へぇ、みんなもあのアニメ好きなんだ。あれ、ストーリーとかさ、他のアニメとかに比べてもクオリティ超高くない?』


『そうなんですよ! ふだんは周りからドジっ子ってバカにされてるアスカが、実は裏ではすごい切れ者で将軍から密命を受けて難事件を解決したり、悪人を倒すのが爽快で……◯☆%♪〆¥』


 ふわりちゃんは、徐々に早口で饒舌に好きなアニメを語り始めた。


 ところどころ早くて聞き取れない。


 コメント欄はふわりちゃんに対して「美少女オタク」というという称賛?のコメントが多数流れる。


『実はさ、この間ふぅちゃんとカラオケ行ったんだけど、歌もメッチャ上手いんだよねー』


『いえ、そんな……』


 ふわりちゃんは手をパタパタと左右に振って否定した。


『せっかくだから一緒に歌わない?』


 そう言って二人は「美少女同心アスカ事件帖」の主題歌を歌い始めた。


 これは以前、カラオケ行った時にふわりちゃんが歌っていた曲。


 この日のために、阿舞野さん、この歌を覚えたのかも。


 だんだんとふわりちゃんもノッてきて熱唱し始める。


 以前、カラオケ行った時と同じだ。


 コメントは二人に対して絶賛の嵐。


 ふわりちゃんをトラウマで閉ざしてた前髪のカーテンは、阿舞野さんによって開けられた……、と思っていいのかな。


 その日の配信は大盛り上がりで、無事に終わった。


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