22ページ目.不思議の国のふわり
お互いに腕に書いた相手の名前を消した後、オレは漫画部へ、
いつも通り、部室に入るともうみんなすでに集まっていた。
部長でありながらラストにのこのことやって来たオレが、室内のメンバーをパッと見ると……、あれ? 人数が一人多い。
女子の制服を着ている。
胸のリボンが緑色なので1年生っぽい。
「あっ、部長。入部希望者です」
美南美がオレの顔を見るなり言った。
その子は無言で、オレにペコリと頭を下げる。
それにしても随分と暗い感じの子だ。
髪は黒髪のショートカットなのだが、前髪がすごく長くて目が隠れてるほど。
陰キャ女子、オレの同じ属性っぽい。
陰キャと一口に言ってもその中にはカーストがあって、彼女は陰キャカーストでも底の方だろう。
まさに深海魚を思わせる印象。
「ああ、えっと、入部ありがとう。仲間ができて嬉しいよ。入部の動機なんかある?」
くだらない質問だと思いつつ、間を持たせるために聞いた。
「漫画が好きだからです」
彼女はオレが言い終えると同時に、女子にしては低い声で答えた。
まあ、そうだろうね。
結局、話が止まってしまった。
「……えっと、漫画を描くのは初心者さんかな? それともすでに自分で描いてたりするのかな?」
オレがそう聞くと、彼女は無言で鞄に手を入れ、バッと素早く原稿をオレに渡してきた。
「どれどれ拝見」
オレは彼女の漫画に目を通す。
やはり、陰キャ安定のエロ漫画だった。
しかもエロ漫画でも、どちらかと言えばマニアックなプレイをする漫画だ。
オレの漫画と、アブノーマルという方向性は同じでも過激さが違った。
絵の上手さはというと、さして取り立てるほどではなくどこかで見たような絵で実に平凡。
中の中か、人によっては中の下の腕と判定するかもしれない。
髪の毛で顔の半分が隠れてるので表情ははっきりとはわからないが、やっぱりどう思われるのか不安なようだ。
「なかなか上手じゃないか」
オレはお世辞を言って、彼女に原稿を返す。
でも彼女は黙って原稿を鞄にしまうだけで特に喜ぶとか反応は無かった。
「じゃ、じゃあ顧問の先生に入部届を出してもらえる?」「もう出しました」
彼女が被せ気味に答えた。
「そっ、そうか。それじゃ今日から仲間だ。いま部としての代表作を製作中だから、ぜひ力を貸して欲しい」「はい」
う〜ん、返事が早い。
なかなか不思議ちゃん要素を持った子だ。
まさに自分の中に自分だけの国を創ってるような。
「あの、名前は?」「
嵯峨も美南美も、ふわりの持つ独特の雰囲気に戸惑っているようだ。
まぁ、もしかしたら阿舞野さんとの秘密のプレイを絵にするのに、不思議ちゃんで変態的な彼女は戦力になる…………………………………かもしれない。
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