21ページ目.文字が滲む肌
放課後。
部活へ行く前に
「ゆらっちの名前、友達に見られないか、メッチャドキドキしたんだけど。これ、超良きじゃない!?」
阿舞野さんが楽しそうに笑い、ブレザーの袖を捲り、オレが赤の油性ペンで書いたオレの名前を見せてきた。
「まぁ、オレの場合はそんなに人に見られる危険性はないんだけど」
友達が少ない陰キャのオレも袖を捲り『うずめ命♡』の文字を見せる。
それを見て、彼女はまた笑った。
よかった、阿舞野さんに刺激を与えられて。
このアイデアを考えてくれたラノベ部部長、
「どう? 腕にアタシの名前書いてる間に、ほんとにゆらっち、アタシ命になっちゃったりして?」
阿舞野さんは意地悪く笑い、オレにそう質問してきた。
うっ……、これは難しい問題だ。
なんて答えるのが正解なのか??
スクールカースト上位の女子を陰キャのオレが好きだなんて、自分自身でははっきりと認めないようにしていたけれど、このチャンスを逃さずに正直に本人に告った方がいいのだろうか。
『あの、阿舞野さん、実はオレ、君のことが好きだ!!』
……なんて、無謀なこと言えるわけがない。
「あっ、阿舞野さんこそ、オレ命になってたりしてない?」
オレは咄嗟に良い返しが思い浮かばず、彼女を真似た質問で返す。
って、しまった! パニックに陥った頭が気の利いた返しを捻り出せなかったせいで、思わず大胆なことを聞いてしまった!
コミュニケーションが下手という、オレの中の爆弾。
阿舞野さんに、そんなことないよってすぐに否定されて、笑ってあしらわれてちょっと凹む……。
という結果だろうと思ったんだけど。
なぜか阿舞野さんはオレの質問に答えず、口を真一文字に結んで黙り込んだ。
心なしか、顔がほんのり赤くなった気がする。
「とっ、ところでさ、これ、どーやって消すの?」
阿舞野さんは逆質問で話を逸らした。
「……えっと、日焼け止めか口紅、持ってる?」
オレは彼女に聞いた。
日焼け止めも口紅も、阿舞野さんのようなオシャレJKにとってはマストアイテムだ。
「うん。両方持ってるけど?」
彼女が答えた。
「どっちか貸して?」
阿舞野さんは鞄から日焼け止めクリームを取り出し、オレに渡した。
オレは彼女の肌に書かれた自分の名前にクリームの乗せ摺り込む。
それからティッシュで拭き取った。
「あっ、消えた! えっ、待って。マジすごい! ゆらっちってなんでも知ってるんだね! こういう豆知識知ってる人って、なんか家事とか得意そう!」
阿舞野さんは小さく可愛い拍手をしてくれた。
そんなに褒められることだろうか、と思いつつもやっぱり嬉しい。
「痛み入ります」
一応、オレはお礼を言う。
「ゆらっちのも消してあげるよ」
阿舞野さんの日焼け止めクリームがオレの肌に染み込む。
彼女の細い指がオレの肌をくるくると撫でた。
なんだかくすぐったい。
徐々に滲んで原型をとどめなくなった『うずめ命♡』の文字。
滲む文字を見て、消さないでずっと残しておいてもよかったかな、なんて思いが頭をよぎった。
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