20ページ目.RTGレッドタトゥーガール
油性ペンと水性ペン。
一応、両方用意して持ってきた。
ラノベ部部長の
部長が考えてくれたこと。
それは落書きタトゥー。
お互いの体に相手の名前を書いて、一日学校で過ごすというもの。
「おっはよー!」
阿舞野さんがにこやかに登校してきた。
「待った?」
「いや、大丈夫」
そんなやりとりを交わし、二人で人目のつかないところへと移動する。
「用意してきたよ」
オレは鞄から持ってきた油性ペンと水性ペン一式を取り出した。
「にゃはっ、楽しそう!」
笑う阿舞野さんに、オレは「油性と水性、どっちがいい?」と選択させる。
水性ペンだと、体に書いても落としやすいが、そのぶん書いた文字が消えやすい。油性ペンだと、文字は消えにくいが落としにくい。
「油性じゃない? 服が擦れてすぐ消えちゃったらつまんないし」
オレもそう思っていた。
二人の意見が一致したので、まずは阿舞野さんの体にオレの名前を書くことにした。
彼女が紺色のブレザーを脱ぎ、スクールシャツの袖を捲る。
目の前に突き出された阿舞野さんの腕。
その腕は、光を反射するガラスのように透明感がある綺麗な肌だった。
アプリで加工しなくても、この美しさ。
肌のケアにも気を使ってるのかな。
そんな汚されていない肌にオレの名前を記すのか。
ちょっと躊躇われるものがある。
と思いながらも、阿舞野さんの腕の裏側、肘の窪みの下あたりに、赤の油性ペンでしっかり『由良命』と書いてやった。
「なんかゆらっちの名前って命って漢字だからさ、『ゆら、いのち』ってまるで彼氏みたいだよね」
阿舞野さんがニカッと笑う。
本当だ。
なんかヤンキーとかが恋人の名前をタトゥーしたみたいだ。
「恋人みたく、名前の下にハートマークつけてよ?」
阿舞野さんが言った。
ドキッと強い鼓動がオレの胸を打つ。
「えっ……? いいの?」
「いいよ」
微かに震える指で、由良命の下にハートの形を書いた。
「今度はゆらっちの番だよ」
オレもブレザーを脱いで袖を捲る。
阿舞野さんは意地悪そうな笑いを見せ、赤の油性ペンで、デカデカと『うずめ命♡』と書いた。
「げっ!」
彼女は自分の名前に命の一文字を付け加えて、オレの名前と同じように書いた。
「これでお互いにこの落書き、絶対に人には見せらんないね。見られたら最後、周りの子たちから、二人は付き合ってるとか噂流されるよ」
またもや阿舞野さんは意地悪そうに笑う。
確かにこれを見られたら最後、周りから何を言われるかわからない。
からかわれたり、冷やかされたり、言いふらされたり……と、まあ色々と大変だろう。
それにオレは阿舞野さんのことを好きな男子から、睨まれるわライバル視されるわで、余計なトラブル抱えそう。
なんとしてもこの腕の秘密を隠し通して、今日一日を過ごさなきゃならない。
五月も後半。
暑くてもブレザーはなるべく脱がないようにしよう。脱いだとしても、シャツの腕まくりは厳禁だ。
共有の秘密を持ったオレ達は、互いに手のひらをにパンと合わせて、秘密の紋章を隠し通すスリルを楽しむことにした。
◇ ◇ ◇
授業中、ふと横に視線をやると、隣の席の阿舞野さんがオレの方を見ていた。
オレと目が合うと彼女はニカッと笑い、腕をこそっと捲り『由良命♡』の文字を見せてきた。
オレも他の子の視線を気にしながら、そっと『うずめ命♡』の文字を見せる。
阿舞野さんは口元に手をやり、笑いを堪えていた。
先生も生徒も、みんなオレたち二人の腕に書かれた文字を知らずに授業を受けている。
二人だけの秘密、この胸の高まりは本当に病みつきになるな。
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