7ページ目.接近5センチメートル

 女子と二人きりで並んで帰る。


 これは全校男子の中で何パーセントのヤツが経験することなのだろう?


 実はオレが思ってるより多い?


 なんせオレの知る世界では、そんなヤツは皆無だったから。


 それともやっぱりそんなに多くはないんだろうか?


 オレはマジョリティに入ったのか、それともマイノリティに入れたのか?


 通学路を歩く周りの人を見る。


 カップルもちらほらといるけど、やっぱり同性の友達同士で帰っているのが大多数だ。


 ここではマイノリティなので目立つ存在。


 しかもオレの隣にいるのはただの女子じゃない。


 校内で美人プラス可愛いと評判の人気者、あの阿舞野あぶのさんだ。


 ただでさえ周りの視線が気になるシチュエーションなのに、より一層、敏感になってしまう。


「それでさー、今日ダンスの練習なのに制汗スプレー持ってくの忘れちゃってさー。ヤバくない?」


 阿舞野さんはというと、オレの心配をよそに、楽しそうに話しかけてくる。


「そっ、それはヤバいね、ヤバいよ、ウンウン」


 人の目が気になるオレは話もよく聞かず、相槌を打つ。


「でしょー! ゆらっちもそう思うでしょ! ミウのデオドラント借りるって手もあったんだけど、なんかあの子残って練習しててさー。ちょっとロッカーで待ってたんだけど、アタシゆらっち待たせてるから、ミウが終わるまでは待ってらんなくて」


「そっ、そうだね、オレが待ってるしね、ウンウン」


 そんな感じで、オレは緊張で硬くなってる体をロボットのようにぎこちなく動かしながら、阿舞野さんと駅へと向かう。


 陰と陽、この正反対の男子と女子の組み合わせは異様だろうか。


 やっぱりチラチラとオレ達を気にする周囲の視線を感じる。


 その度にオレの中に、大きな恥ずかしさと、今まで感じたことないわずかな優越感が湧くのだった。


 しばらくして駅に着いた。


 二人で電車に乗る。


 この時間帯は、仕事終わりの人と部活終わりの学生で車内が混む。


 これも過去二年間、もう何度も繰り返して体験してきたこと。


 ただ今日は少し違う。


 そばに阿舞野さんがいるのだ。


「超混んでるし! もうちょっと奥行こ」


 そう言って彼女はオレの腕を掴んだ。


 阿舞野さんの誘導で、二人で車両の奥の方へと詰める。


 阿舞野さんは女子の中では背は高い方だけど、オレよりは少し低い。


 少し視線を落とせば、阿舞野さんの艶めく髪の毛が。


 それほど近い距離に阿舞野さんがいた。


 出会って二日。


 校内の人気者とオレが、こんなにも急速に距離を縮めるなんて、どんな予言者でも見通せなかったんじゃないかな。


 人生、一寸先は闇とも言うけど、一寸先が光の時もあるんだ、なんてことを思ったりした。


 電車が揺れる度、彼女の体と自分の体が触れ合った。



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