5ページ目.由良、部長やるってよ

 うちの群光ぐんこう学園はけっこう自由な校風だ。


 そして時代や流行にも敏感なようだ。


 部活も他校に無い変わったものがいくつもある。


 eスポーツ部はもちろん、オレの漫画部や仮想空間部、ライトノベル部、マジック部、パティシエ部、コスプレ部、アニメ研究部、ミステリー研究部などなど……。


 日本一、部活動の数が多い高校かもしれない。


 エアバンド部なんてのもある。


 いかに本当に楽器を弾いているように見せるかを極めるそうだけど、それなら実際に楽器を覚えた方がメリットが大きいのでは? なんてことをお節介ながら思ってしまう。


 そんな部活の中で、阿舞野あぶのさんはライバー部だと言うことは校内でも有名だ。


 動画配信でバズるインフルエンサーを目指して活動してるそうだ。


 やっぱり阿舞野さんは芸能人を目指してるのかな?


 顔やスタイルだけで判断すると、イケそうな気がするけど。


 さて、今から新年度初の漫画部の活動が始まる。


 新入部員は入ってくるかな。


 漫画部なんて人気がありそうだけど、やっぱり今流行りの部活の方へ人は流れているようだ。


 そもそもおとなしいメンバーでコソコソ活動してるので、漫画部の存在自体知られてないかも。


「えー、本日は新年度が最初の活動です。 となれば、まずやるべきことは新部長の選定です!」


 部室に集まった三年のオレと嵯峨元康さがもとやすを前に、力強く言ったこの子は一つ下の後輩の部員、衣川美南美きぬかわみなみ


 背の低いツインテール女子。


 漫画部に入るぐらいだから、隠キャなんだと思う……けど、結構オレ達相手にハキハキ喋る。


 本人曰く、クラスでは無口でおとなしいが、自分と同じ匂いのする人といる時は、安心感で口が開くらしい。


 まるで、加熱されたアサリかシジミだな。


「今年こそ、絶対に我が部からバズる作品を世に出さなければなりません。そのために部長は舵取り役になる大事なポジションです」


 美南美は一人、頷きながら話す。


「流行りに乗る内容でありながらも、二番煎じ、三番煎じ、四番煎じ、とんで二十番煎じのような作品ではいけません。オリジリティもないと。『ステギャザ』でのアピールになるウリが大事です。わかりますね?」


 ステギャザとは「スティックトゥギャザー」というクリエイティブな趣味を持つ人達のためのマッチングサービスのこと。


 趣味でライトノベルを書いた人の小説を、漫画を描くことが趣味の人が漫画にしたり、または自主アニメ制作が趣味な人がアニメにしたり、そのアニメに音楽が趣味の人がテーマ曲をつけたりと、それぞれを結びつけてくれる。


 その作品が口コミで広まり人気が出れば……、メジャーデビューも夢じゃない!


 でもまあ、それこそ無数にある作品の中で選ばれると言う夢のような話。


 良い作品を作るのはもちろん、運も強くないといけない。


「ということで、部長になりたい人、立候補!」


 美南美は、バン机に両手をついて身を乗り出した。


 いま部を仕切ってるのは彼女だから、自分が部長になればいいんじゃないか?


 そう思ったけど、誰も(三人だけだけど)名乗りでない。


「……じゃあ推薦で」


 美南美が言う。


 推薦? どうする?


「せーの、でそれぞれ誰がふさわしいか、指をさして決めましょう」


 う……、嫌な予感。


「いいですか、いきますよ。せーの!」


 美南美の掛け声を合図に、オレは迷わず彼女を指さした。


 後輩に部長を務めてもらうという先輩というのも情けない気がするけど。


 オレは漫画を描く方に集中したいのだ。


 しかし、他の二人の指先は……。


由良ゆら先輩が新部長ですね」


 ええー、オレが部長!?


「適任だな」


 嵯峨が言う。


 って、適任じゃなくて絶対テキトーに選んだだろ、オマエ!


「では次は今年、部として描く漫画のテーマを決めようと思います」


 美南美は次の議題に入る。


 ってことはもうオレが部長って決定かよ。


 まいったな。本人の意思も聞いてもらえない。


 まあ、部長に選ばれるのは三分の一の確率だし、一応三年だし……、甘んじてやるしかないか。


「どんなストーリーにするか、概要だけでも決めときましょう」


 話はサクサク進んでいた。


「オレ、ストーリー考えるの苦手だからなぁ」


 嵯峨が答えた。


「それはオレもだよ」


 彼に同意する。


 絵はそこそこ描けると思うんだけど、面白いストーリーが思い浮かばない。


 作った作品読み返すと、自分でもつまらないと思うもの。


「わたしは自信ありますが」


 美南美が自信ありげな感じで言った。


「どんなストーリー?」


 疑わしいので内容を訊いて確認する。


 彼女はひとつ咳払いをして、話し始めた。


「お寺の娘であるJKが、ある日異世界に転生してしまうのですが、その異世界でのモンスターに主人公がお寺で覚えた般若心経を咄嗟に唱えると、実はモンスターに有効で、その力を活かしモンスター退治で活躍するのです。そしたら国中の人に感謝されて、今度はその噂を知った王子様に見初められ、彼女は結婚して幸せになる話です」


 つ、つまんなさそう……。


 だけど美南美はしたり顔で胸を張る。


「うーん、でもそれってよくある話じゃない?」


 嵯峨が頬杖をつきながら言う。


 よくある話か!?


 たしかによくある要素は異世界転生と王子と結婚で、般若心経でモンスターを倒すのは聞いたことないけど。


「そうですかね? 自信あったんですけど……。それなら、ほら、うちの学校ってライトノベル部があるじゃないですか。そこに相談したら、ストーリー作りの協力をしてもらえるんじゃないでしょうか」


 美南美が提案する。


「そうだね、以前先輩がコラボしようかって話をしてたけど、まだ実現してないし、ステギャザで知らない人とコラボするよりやりやすいだろうし」


 これが就任して間もない、オレの部長らしい最初の発言。


「じゃあ今度、ラノベ部に伺って、話しを持ちかけてみましょう」


 美南美が話をまとめて、その後、三人でイラストの練習をし、その日の部活を終えた。

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