第25話 女神 九天玄女
下唇が飛び出した謎のオッサンが、その唇を開いて声を上げる。
「渡り人たちよ、よ~く聞きなさい。我は女神
不思議なことにその声は、目の前のオッサンの声とは思えないほど高く清らかに澄んだ声に変っている。
大町小町の歌声を凌ぐほどの美声。その声のトーンに全員が驚きの余り、フリーズ状態に陥る。
しばらくして、驚いた全員が声を揃えて叫ぶ。
「「はあああああぁぁぁぁぁーーー!!」」
「「めがみぃーーーーーーっ!! これがあーーー!!」」
「「えええーーーーーーっ!!」」
「どうじゃあ、あまりの凄さに驚いたようじゃのおう。もっと畏れ、敬っても善いのじゃぞ」
九天玄女と名乗る
空いた口が塞がらない史龍や小町を余所に達也が問う。
「ちょっ……待たれよ、御仁! 失礼を承知で言わせていただくが、そのイカリヤ的な風貌で女神だと申されても俄には信じられませんぞ」
「ほう、其方は我がこの姿(イカリヤ的な風貌)故に女神ではないと、そう申すのかな?」
「いかにも」
「人間という者は、やはり見てくれだけで判断するのじゃなあ……。ひとつ教えておくが、この先にあるSixRoadという世界では、眼で見たことだけで判断するのは命取りとなろうから、もっと心眼を磨くことが重要だと肝に命じておくが善いぞ」
そう言い終わると、門番長(女神)の姿は緩々とまるで蜃気楼のように空気中に溶け出し気体のような状態となってゆく。
と、次の瞬間、姿を変幻させる。
ユラユラと残像のようになった姿がみるみる形を成してゆき、金色に輝く柔らかで艶やかな美しい姿になる。
その変幻を目の当たりにして、全員が目を見開き呆気に取られた。特に史龍と小町は、半開きだった口が更に大きく開いてしまう。
達也に至っては、両手を合わせ合唱すると、何やらブツブツと唱え出す始末である。常に冷静でクールな冲也でさえも眼を見開いたまま動かない。
唯一、亮だけは皆と違って驚く様子もなく穏やかな表情で佇んでいた。
その亮の存在に気づいた女神
「おやおや? そこに居るのは諸葛亮ではないか。其方は二度目のチャレンジになりますね」
「
「礼には及ばぬ。其方を天下分け目の五丈原の地へと還すことも出来たのじゃからのう。その意味ではすまないことをしたと思おておる。転生させたのはせめてもの報いじゃよ」
「いえいえ、私の未熟な延命の儀式が失敗し、亜空間へ引きずり込まれたところをお救い下さったことへの恩返しですから」
「うふふふ、そのように謙虚で礼節をわきまえた其方だからこそではあるがのう」
その微笑みに応えるように亮は宣言する。
「次こそは己の才と英知を見誤ることなく、見事ご期待に添えるよう尽力致します」
「先の挑戦では我の言うことを聞かず、無謀にも単独で挑みよったがのう……しかし、今回はしっかりと人員を編成して参った様子。しかも、抜け目なく其方の世界の鍵の守護者を伴っておるとは流石は諸葛亮じゃのう」
九天玄女は小町を一瞥して続ける。
「其方ら、今一度よ~くお聞きなさい。この先に待ち受ける未知なる道、それこそがSixRoadと呼ばれる異世界。其方らの世界もその中のひとつ。そして、それぞれの道の先におる六鍵守護者(Keeper of the six keys)と呼ばれる六人の守護者から三界を統合する鍵を手に入れるのです。其方らはすでに“詠唱の守護者”を伴っておるから残り五人の守護者にコンタクトするのです。いま、この
三界に存在する6つの道=世界に散らばる鍵を集め、神の聖域へ入るのです。
それを成した時こそ、この
九天玄女の話を聞き終えると、徐に冲也が切り出す。
「質問いいですか? 何故、俺達がやらなければならないんですか? そういう大層なことは女神様のような神々がやることなんじゃないのかな?」
「もっともな質問ですね。しかし我らが出来るものなら既に正しておるのだが、それが出来ないから其方ら選ばれた“渡り人”に託しておるのじゃよ。神々が正面切って介入できない邪悪な地獄界とのパワーバランスが影響しておるのじゃよ」
「なんだか、解るような、全く解らないような話だなあ……もうひとつ聞きたいんですが……」
「其方らが捜しておる者達のことであろう」
冲也の言葉を遮るように九天玄女が被せてくる。
「————その……通りです。それを教えてください!」
その会話に史龍、達也も身を乗り出すように九天玄女を見据える。
「先ほども申したが、王子進次郎、正宗江太郎、
探し求めていた三人の名前を九天玄女が口にしたことで、それぞれの瞳に希望の光が灯る。
「だったら、進むしかねえだろう。こんな訳のわかんねえところまで来たんだからよ!」
「ああ……そうだね」
「武松…待っててくれよ」
史龍、冲也、達也の三人は決意を固めた。
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