第23話 Six Road~無限の彼方へ

 小町が巻物をスルスルと開き、亮に促されて例の言葉を詠唱する体制に入る。


 何やら神聖な力が立ち込めているかのような、そんな錯覚を起こしてしまうほどに空気が張り詰めている中、皆は固唾を飲んで見守っている。


 しかし、小町の表情が何かおかしい。というより、引き攣ったような笑顔を亮に向けている。


その小町が亮に向かって観念したかのように蚊の鳴くような声を発した。


「えっと……あの……その言葉なんだけど、全く覚えてないんですけどぉぉぉ」


「んっ?? すみません、よく聞き取れなかったので、もう一度お願いします」


 亮は小町にワンモアプリーズすると、小町の顔がみるみる真っ赤に染まっていくのを指差し確認してしまう。


「だーかーら〜、そんな意味のわかんない言葉は〜」


小町の恥ずかしさが沸点に達するが、亮は笑顔で応じている。


「だ・か・ら・? なんでしょう?」


「だからぁー、そんなもの、いちいち覚えてるわけがないって言ってるのよ!!! 全部、言わせるんじゃあないわよーー!!!」


 極度の恥ずかしさが転じて怒りとなる。その怒りは一気に沸点を超えてゆく。


「大体、なんで私にそんな重要そうな役目を振るのよー! まるで私が頭の悪い子みたいじゃないのよ!!」


 小町に激怒された亮はやや圧倒されたものの、すぐに冷静さを取り戻す。


「まあまあ、大町さん、少し落ち着いてください。全く問題ありませんから」


 そして、小町を見守っていた三人の方へ向き直る。


「ねえ、皆さんも温かく見守ってくれているんですよね.........」


そう言いながら三人を見ると、



「「「・・・・・・・」」」


 全員軽い放心状態に陥っているのか口をポカンと開けていた。


 亮はそんな三人を尻目に、気を取り直して小町のやる気を引き出そうとする。


「では大町さん、もう一度、僕が教えますからね」


「————わかったわ、お願い!」


「覚えるコツは、頭の中で扉を開けるイメージを創ることです! そのイメージのまま、この言葉をよく聞いてください。では、行きますよ!


<---- Super califragilistic expiari docious ---->


さあ、これでインプット出来たはずですよ。いま大町さんの脳裏に浮かんでいるイメージを僕に伝えるように唱えてください」


「わかったから、ちょっと黙っててよ! 集中してるんだから」


未だ混乱気味の小町はそう言うと、目を閉じてしばらく沈黙する。


「・・・・・・・」


皆が沈黙する小町に声をかけることなく静かに見守る中、突然小町はこめかみの辺りを軽く痙攣させながら大きな眼を見開いた。


「なんで私がこんなことしなきゃいけないのよーー! っていうか、なんで私があんたなんかの言うことを聞かなきゃいけないのよー!」


「ええええーーーっ!!」


 まさかの小町の今更発言アンド逆ギレに、四人の男どもは驚嘆しまくって同時に声をあげてしまう。

それはまるでゴ○ペラーズなのかと思うほどに綺麗なハモりだった。


 少し間を置いて、亮が今一度優しい口調で語りかける。


「大町さん、これから言うことをとにかく信じて聞いて下さい。先日も話しましたが貴女はこの世界の鍵となる守護者(※詠唱の守護者)なのです。そして、その巻物は守護者である貴女の強い念と言葉だけに反応するこの世界と他の世界とを結ぶゲートなのです。ここまではご理解いただけましたか?」


「この蔵の中の……こんなあり得ない状況を見せられちゃったら、まあ少しは理解するわよ。実感はあまりないけど」


「あの言葉は、守護者である貴女が唱えなければ何の意味もない言葉になってしまうということなのです」


 小町は観念したかのような表情を見せると半分投げやりとも取れるような口調で了承する。

「……わかったわよ! 私にしか開けられない扉ってことなのね。仕方ないわね。それじゃあ……いくわよ!」


 瞼を閉じて可憐な唇を震わせ放つ美声が、蔵の中に響き渡る。



「 ---- Super califragilistic expiari docious ---- 」




 その美声はまるでこの空間内にエコーのように反響したかと思うと、ゆっくりと空気に溶け込むように消え去り、辺りの空気は一気にピーーーンと張り詰める。


 すると、小町が開いた巻物から最大出力と思われるほどの強い光が四方八方へ放たれ、辺り一面を覆っていた闇が消え失せてゆく。

さらに五人が佇む空間をスッポリと包み込むような青白い円形の魔法陣のようなものが出現した。

この円形の空間自体が次元の扉なのであろうか。


「なんだ? この空間は!?」達也は頭を撫でながら全方位を見渡す。


「!? これは一体!」冲也はその場にしゃがみ込むと、円形の陣に沿って浮き上がる見たこともない記号のような光の文字を食い入るように見ている。


「これがゲートってやつか? どこから湧き出てきやがったんだ?」


 史龍は冷静な素振りを見せているが、本能が何かを感知したか、見えない何かに向かって臨戦体制に入ろうかという姿勢をとる。


「これ......って? 私が呼び出したの??」


小町は自分の力でとてつもない代物を呼び出してしまった事実に驚き過ぎて呆然とする。


 困惑する仲間達を見守るように佇む亮は、持っていた羽扇に宿る笑顔の女性に微笑んで語りかける。


「月英、君が教えてくれた通りでしたよ。天罡星とKeeper of the Six Keys(六鍵守護者)が集えば、またシックスロードを目指せるよ」


青白い円形のゲートがより輝きを増してゆく。


 やがて、次元の扉と思われる青白い円形のそれは五人を亜空間へと引き摺り込んでこの世界から消え去った。



 まるで何事もなかったかのように。



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 一方、スマホのGPS追跡画面を頼りに姉達の足取りを追っていた小梅は、途中賑やかな土産屋が立ち並ぶ通りで買ったリンゴ飴を舐めながら亮の祖父母の屋敷まで辿り着いていた。


 姉のGPS端末の軌跡は、目の前にある歴史ある重厚感を醸し出した大きな屋敷の中で止まっている。


「ここにお姉ちゃんがいるのね」


 そう呟いて、大きな屋敷の周りをぐるりと回ってみると、表門のちょうど真裏にある裏門から屋敷の裏庭に入れそうだ。


 見ず知らずの屋敷に無断で勝手に入れば不法侵入で警察沙汰になりかねないが、すぐそこに姉がいるかもしれないと思うとすぐにでも姉の所在を確認したいところではある。


(ここは、やっぱり正攻法で表門から堂々と入るのがベターかも)


などと考えながら、再度スマホのマップを確認すると……。


「ん?あれ?」


先程までマップ上にあった姉の位置を示すアイコンが消えている。


「えーっ? なんで!?」


 小梅は一瞬、狼狽えるが、すぐに冷静さを取り戻して考える。


 GPS端末の充電は昨夜仕掛ける前に確認した。バッチリ、フル充電だったから何もしなければ1週間は電池切れにはならないはずだ。


 考えられるとしたら、アプリ側の方の不具合だろうかと思い、追跡アプリを終了させると念のためスマホの再起動も試みる。


 再度、スマホが起動してアプリを開くが、やはり姉の位置情報そのものが消えてしまっていた。


(何かがおかしい!!)


 先ほどまでとは違う、何か訳のわからない違和感に心がざわめきだす。


(こうなれば、この屋敷の住人に直接話すしかないわ!)


 妙な胸騒ぎがする小梅は、そう決めて即座に行動する。


 屋敷の表門を叩いて、亮の祖母に面会すると訪ねてきた理由を簡潔に説明した。そして、二人は急いで蔵へ向かった。


 蔵の扉は開いたままになっていたが、人のいる気配がまったく感じられない。

小梅は亮の祖母と共に静まり返った蔵の中に足を踏み入れて、内部を見渡した。



………しかし、姉たちの姿はどこにも見当たらなかった。




次回、あの正体がようやく明らかに!! 異次元の彼方へ、さあ行くぞ!!

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