第22話 それって扉開けるための言葉なの?
蔵の扉を開いて、亮を先頭に五人は蔵の中へ足を踏み入れて行く。
蔵の中は天窓から僅かに日が差し込む程度の薄明かりだけであるから、目が慣れるまでは思い切って動くことが出来ない。
しばらくすると少しずつ視界が拡がってくる。
ここに納められている物のほぼ全てが古物で、ほとんどが古ぼけた
所々に大きな壺や屏風らしき物、着物をかける衣桁なども置かれている。
亮以外の四人は珍しく言葉も発せずに目を凝らして周囲を見渡している。
亮は羽扇を取り出すと眼を閉じて額に押しつけ何かを念じる。すると羽扇が薄らと白く輝き出す。
その光景を愕いた様子で見ていた達也が問いかける。
「おい、亮!お前の扇子は蛍光塗料でも塗ってあるのか?」
「……………」
亮は達也の問いかけを無視して、尚も何かを念じている。その亮の様子を確かめてから冲也が小声で言う。
「ちょっと達也、何を言っているんだよ。この状況なんだぜ」
いい加減、亮の奇妙な行動には慣れろと言わんばかりだ。
「だって、あの扇子が光っちゃってるんだぞ!お前は何も思わないのかよ」
「ったく、うるせえな! お前ら静かにしろよ!」
呆れた口調で史龍が文句をつける。
その彼らを見ていた小町は、こいつらが寄せ集まると、静寂さに包まれるなどという雰囲気は皆無なのだろうなと、自分を棚に上げて思う。
三人を見下しながら亮の羽扇の輝きを見つめ直すと羽扇の輝きが少しずつ増しているのがわかった。
すると羽扇の輝きに呼応するかのように、蔵の奥の方で何かが光りだした。
白い光が柱のように真っ直ぐ天井へ伸びている。それを目撃した達也が指を差して叫ぶ。
「おいいーーっ!! あっちの方でも何かが光り出したぞーっ!!」
「うるっせえなーー! デカタツ!! 耳元でデカい声を張り上げるんじゃねえよ!」
達也の大声にビクッとさせられた史龍が怒鳴った。
「だって、突然光り出したんだぞ!! 凄いもん見ちゃったって思うだろ普通。だからお前らにも教えてやったんだよ」
「お前に言われなくても見えてるっつうんだよ。凄いのはお前の声のデカさの方だろ! ったくよ」
「史龍、お前は鈍感なんじゃねえのかー!? 普通は、突然あんな光を見たらビックリして叫ぶだろうが? だから、ついついさー!」
「“ついつい”じゃねえよ! 俺も他の奴らもあの光を見たけど誰も叫んでねえだろ! デカい声張り上げて騒いだのはお前だけだろーが!!」
「ちょっとあなた達、こんな所まで来て、なーに、
「そうだよ、お前ら。小町の言う通りだよ。せっかくお宝でも発見できそうなアンティークな空間にいるんだから、お前らもこの最高の雰囲気を満喫したらどうなんだい」
冲也も小町に同調する。
「ちっ! 何、訳わかんねえこと言ってんだよ」史龍が舌打ちした。
そんな賑やかな四人を残して、亮は話題の光の柱の方へ進んで行く。
「あっ、亮があの光の方へ歩き出したわよ」
そう言って小町は亮の後を追いかけて行く。
「ちょっと待ってよー!」
「亮――っ! ちょっと待てよ。お前の扇子しか灯りがないんだから」
冲也、達也、史龍の三人も後に続いて行く。
亮を先頭に五人は、その光の柱へと足を進めて行く。
そこへ近づくにつれ、亮の持つ羽扇の輝きがだんだんと増しているのがわかる。
そして、光の下に辿り着いてみると、そこには舌切り雀の土産箱を彷彿させるかのような
というより、葛籠の中に強烈な光の元があって、その光が葛籠から漏れ出ているような状態である。
亮は葛籠の前でしゃがみ込むと皆に告げる。
「ここにゲートがあるはずです」
「ん? ゲート??」冲也は亮の発した言葉を聞き逃さない。
「とにかく、先ずは中を見てみましょう」
そう言って亮が蓋を開けると、
葛籠から白い煙のような蒸気が止めどなく溢れ出してくる。結構な量の煙が周囲を包み込んで行く。
この状況に皆の表情が強張る。
そして待ってましたと言わんばかりに、またも達也が叫ぶ。
「うわーーっ! これは、まさか!! 浦島的な、あの伝説の煙なんじゃあーー!」
「ええーーーっ! あの太郎も老人化させたという飛んでもないやつのことーー! ちょっと、私はまだお婆ちゃんになるのは嫌よーー!」
両手を顔の前でバタバタさせながら小町が狼狽える。
「落ち着けよ、お前ら! そんなわけねえだろ!」
怒鳴る史龍の顔を達也が指差して言う。
「うわーーっ! 史龍―っ! お前、顔がどんどんシワシワになってるーーっ!」
小町も続ける。
「ホントだーー! あんたの元々ドイヒーな顔が更に酷くなっちゃったわー! 大変よーー!」
「・・・・・チッ! このバカどもが!」
子供騙しのような嘘を大袈裟に堂々と目の前で披露する二人にイラッとする史龍が反撃に出ようとしたその瞬間、亮が割って入る。
「大町さん、この中に光を纏った巻物があリます。それを貴女が手にとって開帳してください」
「なんだよ、亮! 俺に一言だけ文句言わせてくれよ!」
「史龍君、ここは堪えてください。ここからが“未知なる道”のはじまりなのですから」
亮の台詞が何故か妙に重く感じられた史龍は、やるせなさを押し殺して口を閉じた。
史龍だけでなく冲也もそして達也も神妙な面持ちで黙って小町に注目する。
いつの間にか煙は消え去っていた。
葛籠の中に白く輝く巻物がある。それを小町はゆっくりと取り出すと、亮の顔を見て表情を確認する。
亮が優しく頷くと、小町は巻物の紐を解いた。
全員が注目する中、小町は思い切って巻物を開いた。
「さあ、大町さん、先日教えたあの言葉を唱えてみてください」
「えっ?? それって、あのスカートを捲る呪文のことでしょ??」
「えっ!?……… 違いますよ。否、そうですけど……違うんですよ」
「どっちなのよ? やっぱりいやらしい呪文なんじゃあないのーー?」
「だから、あれは事故みたいなものなんですよ。あの時は大町さんの力が予想以上に強かったから起きた事故ですから」
「まあいいわ! 今日はスカート履いてないから!!」
何故か鬼の首を獲ったかのような小町が偉そうに言い放つ。
「………はい、では、大町さん、気を取り直してお願いします」
「わかったわよ。で、唱えるのに何かポーズとかあるわけ?」
「……特にはありませんので、神に祈るようなポーズでよろしいかと……」
やや呆れ顔の亮だが、穏やかに促す。
小町は目を閉じると胸のあたりで両手を組み、いかにもと言うポーズになる。
他の三人は再び小町に注目する。
小町の顔が強張り、巻物を持つ手が僅かに震えているのがわかる。
かなりの緊張と重圧を感じているのだろうと、小町の表情を見ていた全員は思っていた。そう思った皆もまた、得体の知れない緊張感に包まれている。
が、その張り詰めていた緊張の糸をプツンと切るかのように、小町は引き攣った笑顔を亮に向けた。
「大町さん、今度はどうしました?」
「えっと……あの……その言葉なんだけど、全く覚えてないんですけどぉぉぉ」
(「マジ、かよ………」)
小町に注目していた全員が小声で呟いた。
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