第19話 姉妹
——————出発前夜
小町の部屋を訪れたのは妹の小梅だった。
小梅はどこか様子がおかしい姉のことが気になり、その理由を聞き出そうとする。
「ねえ、何をイライラしているのよ? お姉ちゃんの声が廊下まで聞こえてきてるわよ」
「嫌なことを思い出しちゃったんだから仕方ないでしょ!」
「この前のレセプションパーティの仕事から帰ってきてから、ずーーっと変よね〜、何かあったの?」
「うちの大学にね、嫌な連中がいるのよ! あいつらホント、ムカつくのよ」
「あら〜、いつもクールなお姉ちゃんにしては珍しいわね。先週辺りから随分とイライラしていたけど原因はその人達なのね.........こんなにも長いことお姉ちゃんをイラつかせるなんて、もしかしたら逆に凄い人達なんじゃないのかしら〜」
「はあ!? 冗談言わないでよ! あんな奴等が凄い訳ないでしょう」
小梅は苛立つ小町の顔を見つめながら、戯けるような笑みを浮かべる。
「ふうぅ〜ん、まあ、お姉ちゃんがそう言い張るんだったら、そういうことにしておこうかしら」
「言い張ってるんじゃないの!! 事実なのよ!!」
ついつい大声を張り上げる小町を小梅がなだめる。
「お姉ちゃん、おっかないよーーー! そんなに怒ってばかりいるとせっかくの美人が台無しになっちゃうわよ〜。少し落ち着いた方がいいわよ」
「小梅が茶化すようなこと言うからいけないのよ」
「ごめんなさ〜い…………でも、その相手はどんな人達なのかしら? なんだか凄く興味が沸いてくるのよね〜。一体、お姉ちゃんはその人達と何があったの?」
「それがねぇーー! 私に呪……あっ、ええーーっと、あれよ、そいつらってば、魔法だの呪文だのを信じちゃっているような、そういう......ほらあ、そんなオタクのくせに、ん~と、とにかく生意気な男どもでね……とにかくダサいくせに頭にくるのよ………」
小町は妹からの極々普通の質問に反射的に答えようとしたが咄嗟に誤魔化した。
本当のことを答えたとしても、きっと俄には信じられないだろうと考えたからだった。
「ん?? オタク??? なんだかよくわからない人達ね」
「でね。そいつらがインチキ臭い仕掛けで、私のドレスの裾をめくりあげたのよーーー!」
「えーーーー! それってスカートめくりってことでしょ〜……小学生じゃないんだから〜って、今どき小学生でもやらないわよ〜」
「そうなのよ、あいつらって幼稚なのよ! 大体、ダサいくせに妙なトリックなんか使ったり、粗野で喧嘩しか取り柄がないくせに、私の下着を覗こうなんて百万年早いのよ!!」
「あら? その人達って、オタクなのに取り柄は喧嘩なの〜? 喧嘩オタクってことかしら〜、想像すると何だか笑っちゃうわね」
「!!! そ、そうなの、よーー! とにかくダサい奴等なのよーー!」
小梅は何かを隠している姉の話を見透かして、その真意を知るために話を進める。
「でも、お姉ちゃんが、黙ってそんなことをさせるなんて珍しいわね?いつもなら中途半端な男たちなんか寄せつけないオーラ全開で絶対に近づけさせないのに〜。黙ってドレスの裾を捲らせるなんてお姉ちゃんらしくないわね〜」
誘導されているように感じた小町は焦りだす。
「あっ、でもネ、まあ咄嗟にドレスを抑えたから、ほとんど見えてはいなかったと思うのよ。ところでさー、小梅は魔術とか、魔法とか、そんなのに興味あったりするの?」
この話を無理矢理にでも強制終了させようとする姉の焦りを感じ取った小梅は苦笑いしながら答える。
「そういうお姉ちゃんは、何やら興味深々って感じのようね〜」
「ちょっ………そんな訳ないでしょう。違うわよ!」
「あら、慌てちゃって〜、図星見たいね。ウフフ…お姉ちゃんは真っ直ぐな性格だからわかりやすいのよね〜」
「こらーーっ! 小梅、お姉ちゃんをバカにしてえ!」
「バカになんてしていないわよ。お姉ちゃんって、隠し事とか出来ない性格だから仕方ないのよ」
妹に見透かされている恥ずかしさで真っ赤になる小町だが、会話では妹には勝てる気がしないことを悟って観念する。
「小梅は全てお見通しって感じだね。昔からあなたには敵わないのよね〜。ホント、小梅の冷静さや思慮深さが羨ましいわよ」
「あら〜、お姉ちゃんの方が音楽のセンスも抜群だし、物怖じしない前向きで真っ直ぐな性格が私にはないから羨ましいのよ〜、でも、羨ましいと言うよりも、そんなお姉ちゃんは私にとっての誇りなのよ」
「小梅ぇぇー! あなたって、ホントに良い子よねー! こんな最高の妹を持った私は幸せ者だわ〜」
「お姉ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しい限りなんだけど……じゃあ、良い子の私に本当のことを教えてよ!」
妹の絶妙な切り返しに小町は観念する。
「———————! もうわかったわよ! でも、私の頭がおかしくなったとか、気が触れたなんて思わないでよ!私もあれが本当のことだったのかどうか……信じられないんだから」
「大丈夫よ! 私がそんなこと思う訳ないでしょう」
「じゃあ、信用できる小梅だから話すんだからね。あと、この話は絶対に他言無用だよ。パパやママにだって話しちゃダメだからね!」
「はいはい、誓って誰にも言わないし、お姉ちゃんがおかしくなったなんて思わないから安心してよ」
こうして冷静で優しい眼差しを向ける妹の思惑通りに誘導された小町は、あの日の不思議な体験を告白した。
四人の男たちとの出会い
その中のひとり、三國亮という奇妙な男が見せた不思議な力
そして自分がこの世界の“鍵の守護者=詠唱の守護者”だと言われたこと
亮の支持通りに呪文を唱えたら風が巻き起こってドレスが捲れ上がったこと
明日、彼らに同行してN県のある場所へ行く約束をしたこと
先週起きた奇妙な出来事を淡々と語ったが、それを語る小町の口調はどこか楽しげで、つい先ほどまで怒りにまかせて声を荒げていたとは思えない表情に変わっていた。
誰にも言えずにいた不思議な出来事を妹に洗いざらい語るうちに胸につかえていた何かを吐きだせたからなのか?
それとも亮の話や不思議な力への期待感が薄らと芽生えたからなのか?
いつの間にか、小町は好奇心に心躍らせているかのように見える。
しかし、話の一部始終を聞いた小梅は思った。
姉の話はとても信じ難いというよりかなり胡散臭い。
もしかするとカルト教団のような妙な輩に狙われているのではないだろうか?
今や有名人である姉を広告塔にするためにマインドコントロールしようとしているのではないか?
そんな疑念が頭の中を渦巻く。
(お姉ちゃんは、妙な輩に騙されている!!)
そう心の中で呟いた小梅の表情が強張りだす。全てを告白してスカッと爽やかな表情の小町とは正反対の感情が湧き出した。
(私がお姉ちゃんを守らなきゃ! 明日は私がすべてを暴いてやるわ………)
小梅は姉を尾行する気満々になって姉の部屋をあとにした。
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