第18話 大町小梅
Friday Night
The night before departure
―― 大町邸 ――
閑静な住宅街にある豪邸、どこか大正浪漫を彷彿させるようなシックな西洋様式のお屋敷が大町小町の実家である。
小町は亮たちと約束していたN県へ行くための準備をしながら、先週の出来事を思い出して苛立っていた。
「あーーーっ!! もう忌々しいなー、あいつら! 思い出したら、また頭にきたわー! 大体、明日はせっかくの休暇なのに、どうしてあんな約束をしちゃったんだろー」
あの日の恥ずかしい出来事が蘇ってくる。思わず、側にあったブタのぬいぐるみをソファに投げつけて、自分への言い訳のように叫んだ。
「なーーにが『夢の扉を開けるための言葉』よ! 私の下着を覗き見るための呪文だったんじゃないのよ」
———————コンコンコン
その時、小町の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞー! 空いているわよーー」
ドアが開いて現れたのは小町の妹の
大町
ルックスの良さは姉に負けず劣らず、加えて上品で気高い趣を感じさせるせいか、高校生には見えないアダルトでエレガントな佇まいは姉の小町よりも色濃く現れている。
容姿だけでなく、学力は小町を遥かに凌ぎ、県内トップレベルの優秀な成績を誇っていた。
そんな小梅は姉の小町を誇りに思い、そして尊敬の念を抱いていた。
アーティスティックなセンスと才能に恵まれた姉の小町は、その才に驕ることなく小梅に対してはいつでも優しく頼りになる存在であった。
音楽の才能、美声、音感、リズムセンスは当然優れていたのだが、それに加えて幼い頃から明朗活発で、考えるより早く行動してしまう姉の真っ直ぐな性格が眩しく感じられ、羨ましくも思えた。
小町はそういう性格だから、子供の頃からいつでもコミュニティの中心にいたし、それを後ろからいつも見ていた小梅は、自分には出来ないことを、いとも簡単にこなしてしまう姉の姿に憧れ、そんな姉の背中を見て過ごしてきた。
憧れの姉のようになりたいから真似をしたいと考えた時期もあったが、自分と姉との違いを十分すぎるほど理解していたから、自分には自分に与えられた素質を伸ばすことが大切だと考えるようになった。
“私は私、姉は姉“
そう思うことでモチベーションを高く保ってきた。
そんな小梅の努力や頑張りを知っていた姉の小町も、小梅の背中を優しく押してあげるため、何かあれば褒め讃えたし、ある時には叱咤激励もしてきた。
だから幼い頃から小町と小梅の姉妹はとても仲が良く、お互いがお互いを尊重しあえる理想的な姉妹であった。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
小梅は気になっていた。
尊敬する姉が、先週辺りから何か様子がおかしいことに気づいた。
今までにない姉の喜怒の表し方に違和感を感じていた。
そうなった訳を知りたかった。
一体、姉に何があったのだろうか?
“男絡みのいざこざ”なのではないだろうか?
小梅の直感はそう答えている............が、
しかし、あの姉が男に振り回されるなどとは想像できにくい。
洞察力に優れた小梅でも、その原因について推測は出来るのだが、今ひとつ確信が持てずにいた。
そして今夜、直接その訳を姉から聞き出そうと考えて小町の部屋を訪れた。
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