第6話 五丈原の真相
小町、冲也、達也、そして9号の四人の身体から溢れ出るような光の柱が天に駆け上っていく。
それは亮にだけ見える光景だった。
その不思議な光景を見ていた亮の脳内に突然、閃光が走る。
————過去の記憶が呼び覚まされてゆく。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
〜三国時代。紀元234年秋〜
蜀漢による魏への第5次北伐が開始され、蜀、魏の両軍はこの五丈原と呼ばれる台地で対峙していた。
蜀漢陣中、諸葛亮は秋風に吹かれ独り佇んでいた。
「我が命運もこれまでか……」
天文を観て、自らの命運がここで尽きてしまうことを悟っていた。
「
幕中に腹心の姜維を呼び寄せ、自分の命運が尽きることを伝えると自身の延命の儀式を執り行うための準備を命じた。
黒装束に黒旗を持った49人の武装兵を軍幕の外に配置させ、幕内には49本の蝋燭を用意した。
七日の間、北斗星に延命を請う祈祷術を詠唱するためである。
諸葛亮は姜維に最後の手段であるこの儀式に挑む覚悟を伝える。
「これより北斗に延命を請う祈祷術式を始める。七日間の祈祷後、主灯(蝋燭)が消えなければ、わが寿命の延命は叶うであろう。七日の間、誰一人としてここに近づけてはならんぞ! 頼んだぞ、
「はっ! 御意のままに」
そうして諸葛亮は円を描くように並べられた蝋燭の中央に座して詠唱を開始した。
※伯約・・・姜維の字(あざな)
その後、順調に時は過ぎて行くが、いよいよ7日目を迎えようかという直前に不運は起こった。否、それは不運ではなく、成る可くして起こる運命であったのだろう。
祈祷詠唱の最終段階に入っていた諸葛亮の幕中に、蜀の猛将 魏延将軍が姜維の部下たちの制止を振り切って入り込み、あろう事か誤って主灯を蹴倒してしまう。
魏延の身勝手な行動によって延命の儀式は失敗に終わる。
そして、
失敗したことで、不完全な術が発動することを懸念した諸葛亮は急ぎ、両手の指で印を結び直すと『
※術を反転させて無効化する究極法術
強大な術式の暴走を止めようと必死の形相の諸葛亮を見た魏延は、事の重大さに気づき、少し畏れた調子で詫びる。
「これは失礼した。何かの祈祷の最中でしたかな?」
諸葛亮は魏延の言葉など眼中に無いといった様子で詠唱を続けるが、『倒逆法術』をもってしても延命術の暴走を止めることは適わなかった。
そこへ魏延の乱入を知った姜維が駆けつける。
「孔明先生! 大丈夫ですか!」
「
そう諸葛亮が叫ぶや否や、
まるで北斗の神の怒りなのかと思えるような祈祷術式の暴走によって49本の灯りは次々に消え、巨大な暗黒の渦が出現してしまう。
「うわーーっ! 何だこれはーー、助けてくれーー!!」
立ち籠める暗黒の渦、その異様な光景に恐れおののいた魏延将軍は幕の外へと一目散に逃げ出して行く。
姜維は飛び出して行く魏延には目もくれずに諸葛亮のもとへ駆け寄ろうとするが、その時すでに巨大な渦は幕もろとも祈祷陣中央にいた諸葛亮を飲み込んでいた。
完全に飲み込まれる直前に孔明は告げる。
「姜維伯約よ!後のことはすべて指示通りに……」
「孔明せんせぇーーー!」
姜維の叫び声が、跡形もなくなった空間に響き渡った……………。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
〜現代〜
三國亮が思い出したのは、前世で次元の渦に飲み込まれた際の記憶だった。
過去の記憶の一部を垣間見た後、亮は我に返る。すると、いつの間にか周囲の喧騒とともに亮の視界に色彩が蘇っていた。
(何故、このタイミングで思い出すのかな)
そんなことを思いながら例の四人に視線を向けると、四人の姿から溢れだしていた白銀の光は見えなくなっていた。
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