春の花祭り祭

綾月百花

春の花祭り祭

 春の花祭り祭が始まる。


 花で飾れた花馬車に、学園で選ばれた一番に人気が集まった殿方と姫が乗るしきたりになっている。


 生徒会主催の恒例行事だ。


 生徒は一人、一票投票できる資格ある。


 もちろん、私は第五公爵のうちのエレン・マクレミュー様に一票投じました。


 私は第五公爵のエミリア・アリステアと申します。


 第五公爵とは王家と親戚関係にありますので、どんなにお慕いしていても結ばれることはないと言われています。


 私は報われない恋をしておりますが、エレン様をお慕いしております。

 私の一票で、人気の殿方に選ばれてください。


 花馬車に乗ったエレン様は、きっと学園一素敵に決まっています。


 私以外にも、エレン様を推している女生徒は多いですわ。

 私はそっと陰から、エレン様のお姿を拝見できれば、それだけで幸せです。


 きっと今年のナンバーワンは、エレン様に決まっています。

 他の令嬢も、エレン様のお姿を拝見するだけで、頬を染めておりますわ。

 今年のナンバーワンは、もうすぐ発表される。

 胸がドキドキいたします。



 +



 僕の名前はエレン・マクレミューと申す。


 僕には思い人がおりますが、結ばれることは難しいと父上に言われました。


 とても美しい姫で、とてもお淑やかな令嬢です。


 どうして、僕も彼女も第五公爵家に生まれてしまったのだろう。


 国王の兄弟がその爵位を受け継ぐ事になっている。


 どんなに想っても、彼女は親戚なのだ。


 けれど、想うことは自由だ。


 僕は思い人であるエミリア・アリステア嬢に一票投じた。


 花で飾られた馬車に乗った彼女は、さぞかし美しかろうと思ったのだ。


 この心の想いが通じなくても、彼女をこっそり思うことは自由だ。


 第五公爵に生まれながらも、悪目立ちすることなく、淑やかに過ごしているエミリアは、密かに男の中で憧れの女性と呼ばれている。


 誰が彼女の婚約者に選ばれるのか、話題になっている。


 僕は、彼女の婚約者に選ばれた男に、きっと嫉妬するだろう。


 できることなら、自分の手で彼女を幸せにしたいと思っている。



 開票が始まった。

 生徒会長を始め、それに関わる者が、男女に分かれて、それぞれの箱の中に入れられた紙を開いて、黒板に名前を記して、票数を表していく。


 生徒会長である僕は、女生徒の箱の担当をしている。


 エミリア・アリステア様、エミリア・アリステア様、エミリア・アリステア様……。


 ほら、エミリア以上に可憐で淑やかな令嬢などいないのだ。


 僕の推しは、何度も名前を呼ばれている。


 なんと気分のいいことか。



 +



 その日は、眩しい日差しが照りつけ、春らしい爽やかな日和であった。


 美しいドレスや髪は花で飾られ、花の甘い香りがする。


 無欲故の勝利か?


 私は花馬車に乗る栄誉を授かった。


 隣に立つ殿方は、なんと私の思い人であるエレン様です。


 揃いの様な白いスーツに、私同様、花で飾られている。


 なんと美しく、格好いいのだろう。


 胸に染み渡るような幸福感は、彼と目が合った瞬間に、体中に駆け巡った。


 ミルクティーのような髪色は、遺伝であろうか?私もエレン様も持っている。


 揃いの髪色に、私は黄緑の瞳をして、エレン様は、もう少し濃い緑色の瞳をしている。



「エミリア、今日はエスコートさせてくれるか?」


「エレン様、どうぞよろしくお願いしますわ」



 声をかけられただけで、胸がドキドキする。


 眼差しが優しくて、勘違いをしてしまいそうよ。


 そっとエレン様に手を重ねると、ギュッと手を握られて、心拍が跳ね上がった。

 

 ゆっくりと花馬車に乗る。


 簡易に置かれた階段を、慎重に上がっていく。

 

 花で飾られた馬車の上は、お花畑だ。


 そこに二人で立ち、見つめ合った。



「落ちないように、手を繋いでいたいのだが、構わないか?」


「お願いします」



 頬が火照って照れくさかったが、同じほど嬉しかった。


 私はエレン様と手を繋ぎ、黄色い歓声と拍手の中、馬車が動き始めた。


 二人で見つめ合って、手を振る。


 白馬は、花の冠をつけ、軽やかに馬車は動いていく。


 校舎の間の道をゆっくり馬車は走る。



「エレン様」



 興奮した令嬢が、馬の前に出て、馬が驚いて嘶き、馬車が大きく揺れた。



「あっ!」


 落ちると思った瞬間に、抱えられて、その場に膝をついた。



「大丈夫?」


「はい」



 馬はすぐに落ち着き、興奮した淑女は、生徒会役員が後ろに下がらせた。



「ゆっくり立てるかい?」


「できますわ」



 体を支えられながら、立ち上がると、眩しい笑顔が私を迎えました。



「落ちずにすんで良かった」


「エレン様のお陰ですわ」


「よく堪えた」



 褒められて、嬉しすぎて、私は小さく「はい」と応えるので、精一杯でしたわ。


 紳士的で、スマートで、力強く支えてくださったエレン様の手に、また手を握られて、私は安心して、花馬車に乗っていられた。



 +



 始まってしまえば、春の花祭り祭はあっという間に終わってしまった。


 途中で、女生徒が馬の前に飛び出すアクシデントはあったが、そのお陰で、エミリアとしっかり手を繋ぐことが叶った。


 春の花祭り祭を見に来ていた第五公爵家と国王陛下は、僕の気持ちをくんで、話し合いをしてくださった。



『エミリアにその気があれば、話を進めても宜しい』



 なんという寛大なお言葉だろうか?


 婚約は家同士で行われる。



「父上、母上、僕の妻は、エミリア・アリステア様がいいのです」


「アリステア様に話をしよう」


「父上、お願いします」



 僕は心から両親に頭を下げた。



 +



「エミリア、エレンから婚約したいと申し出があったが、どういたす?」


「エレン様が私を?」


「嬉しそうな顔をしよって、婚約で良いのか?」


「お願いします。お父様」


「よかろう」


「おめでとう、エミリア」


「ありがとうございます。お母様」



 涙を浮かべた私を見て、両親は許してくれた。


 私は、エレン様が大好きなのです。





 翌日、エレンの家に、エミリアとの正式な婚約の通知が届いた。


 ひっそり過ごしているエミリアの元に、僕は急いだ。



「エミリア」


「エレン様」


「やっと僕のものだ」


「私以外、愛さないと誓ってくださるのですね?」


「もちろん、そのつもりだ」



 僕はエミリアを抱きしめた。

 

 やっとただ一人を抱きしめて、そっと頬にキスをした。

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春の花祭り祭 綾月百花 @ayatuki4482

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