8 蚊帳

 私の子供の頃、夏になると毎年、登場していたのが蚊帳かやです。

蚊帳は、蚊などの害虫から人などを守る網です。


 蚊帳の使用は古代まで遡り、古代エジプトのクレオパトラが愛用していたといいます。18世紀にはスエズ運河の建設など、熱帯地方での活動に蚊帳が使用された記録があるそうです。蚊帳の歴史は古いんですね。


 さて、我が家の夏の風物詩と言ってもよい蚊帳は、萌黄色の網に茶色の縁取りがしてありました(私のおぼろげな記憶による)

素材は、麻、綿、混紡とあるようですが、実際に現物が残っていないので、私の想像ですが、綿だったのではないかと思います。麻は結構高額だったようなので、我が家の経済状態を考慮しての判断です。


 私が小学生の頃、8畳間に姉2人と私の3人で寝ていました。

その部屋に毎晩、蚊帳を設置していました。予め、部屋の壁や柱などには、吊り紐を掛ける為のフックは取り付けてありました。

そのフックに蚊帳を父や母が、引っ掛けながら張ってくれていました。

部屋全体を覆うほどの大きさの蚊帳です。

私はこの蚊帳の登場が毎年、楽しみでした。

すっぽり囲まれた蚊帳の中は、子供心に別世界に入り込んだようなワクワク感を与えてくれました。

布団を敷いた部屋の中がまるで一つのアトラクションのような感覚でした。

布団の上で姉達とはしゃぎまわったり、嬉しくって蚊帳の中を何度も出たり入ったりしてました。あまり出入りしていると、その隙間から虫が入ってしまうので父によく怒られていました(笑)

クーラーもない時代ですが、あの頃は今ほど、熱帯夜で寝苦しいという事はありませんでした。暑くても窓を開けたら、心地よい風が入ってきていました。


 蚊帳と言えば忘れられない素敵な記憶があります。

最近は殆んど見ることがなくなったのですが、私の子供の頃は、私の家の周りに蛍が多数飛んでいました。

蛍が飛び舞う美しい自然と綺麗な水がいっぱいだったのです。

光って飛んでいる蛍を2~3匹網で捕まえて、家の中に持ち帰り、電気を消した蚊帳の中で離します。

お尻を光らせて緩やかに飛び回る蛍の姿は、綺麗で美しく、布団に寝転んでうっとりと眺めていました。光ったり消えたりして幻想的な蛍の存在は子供心に不思議でした。蛍は時々、蚊帳の内側にとまって休んでたりもしてました。


 暫く、光を楽しんだ後は、又、蛍を捕まえて、外に逃がしてやりました。

今では味わえないとても優雅な時間でした。









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