第七話 クソデカナメクジに遭遇

いつものようにオオスズメバチを駆除していると、家主のおばあちゃんがいい物をくれた。


旅館の2泊3日無料宿泊券だ。この島に人間が住み始めた時期に立てられた老舗旅館で、サービスがデカすぎると評判だ。レビューを見てもあのウルトラマンの評判のように★5コメが溢れている。


10枚くらいあるらしいんだけど、仕事仲間のカズマサさんとノドグロミツオシエさんで分け合ったのだ。アライさんは3枚、フェネックとカコミスル師匠とアライさんの分だ。


GWは神回間違いなしだぜ。今年は花粉も少ないみたいだし、きっとアライさんの星占いは1位なのだろう。事務所に帰りいつものアライさん服に着替えると自宅に直行、フェネックと師匠に話すとすぐに旅館に連絡、準備OKだぜ。


「アライさん、この旅館どうやって行く?アライさん邸に車は無いよ」


「しまったのだ。調べなきゃなのだ。」


「アライさん、それなら私が知っているのだ。ほら、このバスを使うのだ。」


カコミスル師匠がスマホの画面を見せてくる。

そこには年季の入ったマイクロバスが映っている。それと同時にアライさんは嫌な予感を感じた。前にも似たようなバスに乗ったことがあるのだがその時は超巨大イノシシに体当たりされ転がされまくって大変だったのだ。

いや、待つのだ。今日のアライさんは特別ラッキーだ。トラブルなんて吹き飛ばしてやるぜ。


「じゃあアライさんがバスの時間調べとくのだ。任せるのだ。」


こうしてGW旅館で満喫作戦が始まった。

アライさんはいつも変な奴に絡まれて戦いがちだから休みたいぜ。そんなことを思いながら温泉の楽しみ方を開発したり温泉上がりの卓球の練習をしたりした。アライさんは新テク開発が得意だ。全身をパンパンに肉体酷使するまでもないぜ。


そうしているとその日はやってきた。3人は荷物を詰めたキャリーケースを引きバスに乗り込んだ。今日のバスは3人だけ、貸切だぜ。道中は深い山道で河原に野生のヒグマが見えてフェネックがマジビビりしたりイノシシとタイマンする紳士風の男を見て師匠が撮影してツイッターに投稿しようとしたりずんだもんのモノマネとかをしたぜ。こういう旅行って移動中も旅行なんだよね(笑)。


旅を楽しんでいると、バスの運転手が不穏なこと言い始めた。


「ここの道路こんなに凸凹したっけな?会社からは注意はされてるけど、巨大イノシシ出てこないといいなぁ...」


マジかよ、アライさんが前に倒したイノシシ以外にも巨大イノシシがいるのかよ。星占いが1位から3位になった。よく見てみると凸凹は足跡みたいな形をしている、かなりの大きさだ。


それからしばらくするとジャニ系バスが停車した。タイヤから変な音がしたんだってさ、勘弁してほしいのだ。タイヤには何やら針のようなものが刺さっていた。そういえば昔聞いたことがある。山奥には全身に棘が生えた肉食のナメクジが生息しているのだという、きっとソレの針なのかな(笑)。

運転手がタイヤ交換している間、アライさん達はバスの外で待つことになった。せっかくなので地面にフェネックの絵を描いて遊ぶことにした。その時だった。近くの木の影から黒と灰色のシマシマな巨大生物が現れたのだ。体高1.7メートルくらい、全身に棘が生えていてナメクジのような見た目をしている。


「あ、あれはサバンナシマシマオオナメクジなのだ。2人とも気をつけるのだ。」


「師匠、そんな強そうには見えないのだが。」


「全然動かないね」


巨大ナメクジはこちらを向いておとなしく様子を伺うだけで襲ってくる気配はない。人を食べることもある生き物だ。妙なのだ。

もしかしたらアライさんの運気が守ってくれてるのかもね。


ナメクジを気にすることなくバスのタイヤ交換が完了するとすぐに発車、旅館への山道を進み始めた。今日のアライさん達は絶好調だ。あとは旅館に着いて温泉やフェネックごっこを楽しみ最高の休日にするだけだ。

しかし、そううまくいかないのがジャパリパークだ。またバスが止まったのだ。


「運転手さん、今度は何なのだ?」


「道は合ってるはずなんですが、何かに塞がれてますね。土砂崩れ、ですかねぇ...」


バスのフロントガラスからは黒い壁が見える。岩の質感に似ているがアライさんはその違和感を見逃さなかった。


「あの壁動いてないか?」


「アライさん何を言ってるのだ?怖い話はよしてくれ」


「そうだよアライさん、怪談は夜中まで取っておこうか...」


バタッ...


その時だった、運転席から人が倒れる音がした。あの運転手が倒れたのだ。白目剥いて気絶している。誰が見てもマジ狂いな状態なのだ。

さらに異変は続く。


ミシッ...メキッ...ミシシッ...


フロントガラスが割れ始めたのだ。よく見ると黒い壁がガラスに密着、バスを飲み込もうとしていた。流石にこの異常事態にボーッとするほどアライさん達は間抜けじゃない。

アライさんが水の手を出現させると運転手の服を掴み引き寄せ、バスの外に飛び出した。

次の瞬間、壁は運転席を完全に踏み潰し破壊したのだった。

そしてその壁の正体を知って3人は更に驚いた。

体高10メートルはありそうな巨大な黒いナメクジがそこにいたのだ。


「マジかよ...なのだ。よく見たらコイツ、ダイオウナメクジじゃないか。」


「嘘なのだ!?」「ダイオウナメクジ!?」


「知らないのだ!?ジャパリパーク最大のナメクジでヒグマとかヘラジカも襲う謎の猛獣なのだぞ!?ツイッターでも話題になってたじゃないか!!」


「そんなすごい奴なのだ!?いや、驚いてる場合じゃないのだ。ここは逃げるのだ。」


「そうだね。逃げようアライさん、あの速さなら余裕で逃げられるよ。」


「なのだな。近くに人の街があったはず、そこに行くのだ。」


「ウッス」「ウッス」


そして、話している間に巨体がバスを踏み潰し1分もたたずにスクラップが完成した。マジかよ。これじゃ宿どころじゃないのだ。

さらにアライさんはあることに気づいた。


「クンクン、さっきから何か匂うのだ。昔火山に行った時に嗅いだことがある匂い、硫黄みたいな匂いがするのだ。」


「ヤバいね〜師匠これ催眠ガスだよ。さっきから眠気を感じてるんだ。みんな大丈夫?」


「急いでアレから離れるのだ。」


なんとあのナメクジは睡眠ガスを出す能力を持っていたのだ。ヒグマみたいな素早い生き物でも眠らせてしまえばただの肉、簡単に捕食できてしまう。これ以上ガスを吸うのは危険だ。アライさん達は眠気に襲われながら全力疾走、ナメクジとの距離を取る。

しばらく走ると眠気が薄れてくる。ガスの圏内から抜け出せたのだ。後ろを振り返ると木が倒れていくのが見える。まだアライさん達を追って来ているようだった。ホラーゲームの主人公ってこんな怖い思いしてるのだな(笑)。アライさんは思った。

それから3人と運転手は街に降りて病院へと向かった。運転手は未だに意識が戻っていない、クマも眠らす毒だ、人間が喰らって無事なわけが無いのだ。アライさんとフェネックと師匠の3人は特に何とも無かったのだが運転手は重症で緊急入院らしい。この間のサーバルといいアライさんの周りで入院しすぎなのだ。星占いの順位は25位になっていた。


「アライさん、旅館行けなくなっちゃったね。」


「仕方ないのだ。命あってなのだし。」


「2人とも、近くに日帰り温泉があるらしいのだ。旅館はダメになってしまったけど、温泉は楽しめそうなのだ。」


「師匠、そうなのだな!何としてもGWを楽しむのがアライさん達の作戦なのだな!止まってる時間は無い、全力全開なのだ!」


「アライさん、よく分かってるじゃないか、なのだ!ならば向かうのだ!のだのだのだのだのだのだのだのだ!」


「ちょっと2人とも待って〜、時間はまだあるんだから」


「フェネック遅いのだ!ふはははは!」


アライさんのGW満喫作戦はまだ続くのだ。


おわり

ーーーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは、執筆者のてんてんです。

今回アライさんは巨大なナメクジ、ダイオウナメクジと遭遇しましたね。ダイオウナメクジは睡眠ガスで眠らせた獲物を巨大な口で丸呑みするナメクジです。アライさんは強力な水属性攻撃を使えますが睡眠属性には弱いみたいですね。とはいえ、山道でそんなのに遭遇するのは運が悪いとしか言えませんね。星占いの運気アップが足りなかったのでしょうか?ドンマイ。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る