第7話終了と開始のホイッスル
練習に出たタイミングで恵美と目があった…と思う。
そんな些事でも今日の試合でいいトコ見せたいという男心はすでに最高潮だ。
練習を終え、ユニフォームに着替えた俺たちは円陣を組んだ。
『頭だけじゃないって見せてやれ!県立の誇り!反町いくぞ!』
『『『おう!』』』
先輩の声に応えピッチに入場した俺たちはどこまでもアウェイだった。
それでもGKとして先発した俺は食らいつき続けた。
しかし後半25分、味方の腕にボールがあたりPKを取られた。
ここで止めたらチームは勝つと意気込みを込めゴールラインに立つ。
蹴る直前恵美を一度だけ見た。
必ず止める。そう決めた。
俺は自然と動いた右腕でボールを掻き出した。
沸く弱小の応援勢力とため息を漏らす巨大応援団。
そのコントラストにしてやったりだった。
高い笛の音がなる。
試合終了の笛だ。
PKを止めた反町だが、ロスタイムにカウンターからあっさり失点し0-1で敗れた。
あっけない幕切れだった。
先輩も出し切ったのか涙よりは笑顔が多かった。
試合後は横浜の焼肉屋で打ち上げが決まった。
時間はまだあるから各自一度帰るか時間を潰すようにと言われた。
俺はかっこ悪くなったなとチームから離れスタジアムの裏手に回るのだった。
恵美side
うちが押してるけど点が入らない。
うちが押しているということは健が活躍するということなのだから凄くいいのだけど、反町の応援席に美琴と吉彦くんが仲良く座っているのは悔しい。
あの二人は卒業式から付き合い始め、今も仲良しでこうして幼馴染みの試合を観に来ている。
私達と正反対だ。
ぶんぶんと首を振り、次の楽曲指示をしながら試合を見守った。試合の流れの中とはいえ健を蹴ったクラスメートの田中くんには呪詛を送りながら。
後半も押しているが点が入らない。むしろカウンターでピンチを招くなど一進一退だ。
しかし、長い笛が吹かれた。PKとなった様だ。
お祭り騒ぎのスタンドで私は祈りのポーズを取った。
周りとは恐らく違う思惑の祈りをした私と健の目があったと思う。
次の瞬間には健はPKをストップしていた。
ため息のスタンドで私だけ頬が高揚していた。
終わってみれば1-0で慶法が勝った。
ロスタイムに独走した田中くんがゴールを奪っていったのだ。
私達応援団は今日に関しては手持ちで移動可能な楽器しか連れてきていない。
試合後現地解散出来る様にするためだ。
私は片づけと解散の報告を顧問の先生に電話した。
よしこれからだ。
私は三ツ沢公園を走り出した。
「試合残念だったね」
「最後は呆気なかったよ」
「でも、かっこよかったよ」
「ありがとう。恵美も指示出しとかかっこよかった」
「ありがとう」
「あのさ…、俺、もう一度話がしたかったんだ。前は許せなくて癇癪起こしてさ。でももっと違うやり方はあったと今は思ってる」
「うん。私は本当にバカだったんだ。話さなきゃ伝わるわけないのにね。勝手ばかりで傷つけた。ごめんなさい」
「俺、やっぱり恵美が」
「待って!これは私のわがまま。けじめをつけさせて。」
「すぅ…私、伊藤恵美は間山健のことが大好きです。私ともう一度お付き合いしてください!」
「俺も、俺もやっぱり大好きだ」
「これからは」
「これからも」
「「君の隣に」」
君の隣に @nishikida00
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