第5話彼女の気持ち(恵美)


私には彼氏がいる。

いや。彼氏がいた。


小学校の頃から誰より仲の良い男友達だった健は、中学生になってからどんどん凄くなっていった。

頭が良くなったし、部活で絞られてるのか身体も男の子っぽくがっしりしていった。

私は顔もかっこいいと思うけど、一般的にはかっこよさより優しさが全面に出ているからクラスでの人気は真ん中からちょい上くらいで一番人気という訳ではない。


そんな健から告白された時は驚いた。

告白自体にじゃなく、実は私が健に惚れていたと気付かされた事にだ。


今まで告白を断っていたのは、女子政治の立ち居振る舞いという面もあったけど、無意識に健と比べて物足りないと断っていたのだ。

嬉しくてすぐに返事して付き合い出した。


部活もない夏休みということもあって、健の勉強法を真似した。

ダラダラやらずに一コマ50分+休憩10分と決めたらそれを3〜4回繰り返すという勉強のスタイルは私にもあっていた様で面白い様に成績が伸びた。

図書館帰りのデートも楽しく、得意気に話した紅茶の話題はつい最近ハマりだした趣味なのに前から好きだったように見栄を張ってみたり、食事は本当に好みの方向が似ていて一切気を使わなかった。

雑貨屋で私が惹かれた栞のシリーズは健にはわからないみたいだった。私からすれば健の角がいっぱいついた消しゴムの方がわからなかったけど。


彼氏との夏休みを満喫していた私は久々に部活の仲間やクラスメートに会う機会があった。


その場で最近付き合い出したクラスメートが『付き合い悪い』という言葉から始まって次第には『受験生のくせに遊び回っている』とか『身体の関係ばかりにかまけて成績を落としている』など酷い陰口を叩かれていた。

私は自分がその標的になるのを恐れた。

その翌日健にナイショにする提案をして信頼できる二人にだけ伝える事にした。


秋になり冬が近付くにつれて、私の成績はぐんぐん伸びた。

健との勉強は集中力が付くのか一日が本当に有意義だった。

夜には地下の物置でフルートを練習出来るくらい時間にも学力にも余裕ができてきた。

そんな時だった、物置でお父さんとお母さんの卒業アルバムを見つけたのは。


名門私大の附属高校に通っている写真はどれも輝いて見えた。

そうしていると昔は自分が入りたいと思った高校だったと思いだしてしまった。

健と同じ学校に行きたいけど両親の母校にも行きたい。

悩んだ。

でも健には相談できなかった。絶対に応援するって健は言うだろうから。


両親は私立はとりあえず受けとけばとアドバイスをくれた。

それでも私は健と反町を目指す気持ちの方がその当時は強かった。

でも、高校の吹奏楽大会で慶法が凄い演奏をしていて気持ちが傾いた。

更にクリスマス時期には迅くんが慶法に推薦合格したと知らされ、話を聞いてみたくなった。

その場で彼はいきなり私に告白してきたけれど、気持ちは全く向かなかった。

けれど、彼から聞く話はどれも面白かった。


クラスメートから迅くんとの関係を聞かれ否定すると何故か健の話題が出てきた。

吉野さんは健の事を前から気にかけていたし、多分好意を抱いていると私は見ていた。

そんな吉野さんに実は付き合ってましたなんて話したらトラブルになりそうだと思い、健を下げる発言をした。保身ばかりで自分が嫌になる。


イブの日偶然家族で食事したレストランで迅くんの家族に会った。

なんと迅くんの両親も慶法でうちの両親は先輩だったみたい。

「子どもたちが母校に入れたらならいいなぁ」

とお酒が入った父がこぼした時、私は慶法を第一志望に決めたのだった。


父は迅くんのお父さんと飲みに行き、母たちは2人で喋りながら歩くから自然と迅くんと2人で歩く形になった。

健にどうやって伝え様か迷っていると迅くんは背中を押してくれた。

「一緒に目指している人には変に伝えない方がいいんじゃない?まず受かるかはまだわからないし、変に決めつけないで少し気楽にどちらも目指せるって意識でいればいいんじゃないかな」

私はどちらも受かるつもりで勉強に励んだ。



健が風邪を拗らせたみたいで模試以来なかなかあえなかった。学校でもどうもすれ違いや大人数でしか会えず、私は受かってから話そうと思い伝えられなかった。

試験日にも私は健がくれた栞を参考書に挟んで臨んだ。

私は勝手に健が後押ししてくれた様な気がした。


合格通知が届き両親は喜んでくれた。

公立も一応受けとくと両親に伝え、健と反町高校で試験を受けた。

私も健も反町に受かった。


違う高校になるけれど健という彼氏は大切だと思った。

大切だと思っていたはずなのに健を蔑ろにしていた。

私が同じ事をされたらどうか。

同じ学校に行こうと勉強をし、時には教えた相手が第一志望を黙って変えていたとしたら。

酷い事だと思った。少なくとも大切な彼氏にすることではなかった。


泣きながら家に入ると慶法の制服が届いていた。私はもう戻れなかった。

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