第4話決別の合格発表

姉にアイスを渡し、「たべないの〜」の声も無視してベットに飛び込んだ。


なぜ?

なんで?

疑問はずっと付きまとう。


翌朝になっても気持ちは晴れず小学校低学年以来の風邪を拗らせ、年越しも初詣も行けなかった。

でも風邪を引いて会えないという『逃げ』のお陰で気持ちは整理が付いていた。


今は互いに受験生だ。受験に悪影響がない様に合格発表が終わったら恵美としっかり話し合おうと。


三学期は教師が走る時期よりもっと早く進んだ。

自由登校日もあり、恵美と会う機会は減っていった。

それでもメッセージアプリでは励ましあった。

そして二人は公立の志望校に合格した。

同じ県内トップの高校だ。

これから同じ高校でもう一度関係を始めるために恵美と話すのだ。

そう決意して教室を目指した。


教室は合格発表を終えた生徒がちらほら戻り始めている様だ。

恵美の声もする。よし行こう。扉に手をかけた。

「恵美凄いね!反町高校にも受かったんだ!でも慶法の附属にいくんだよね?」

「うん。両親の母校だし、吹奏楽も強いみたいだし」

健には何を言っているのかわからなかった。

たった一枚の扉がどこまでも厚いシェルターの様に違う世界と拒絶された気分だった。

「迅くんも慶法だよね?」

「僕はギリギリの推薦合格だったんだ。恵美ちゃんは反町も受かるぐらいだから僕なんかとは比べ物にならないよ」

「迅くんは踏ん切りつかない私の背中を押してくれたんだ」

「おやおや?カップル誕生ですかな?」

「もうそんなんじゃないよ〜」

楽しそうなやり取りはもう耳には入ってこなかった。


ただ、一つ。彼氏としてあれだけ一緒に勉強したけれど、進路の相談はしてもらえなかった。


いや。

違うか。


同じ学校を『勝手に』希望する俺が重たくて相談しにくかったんだろう。

納得がいった。でも辛いなぁ。一言で良かったのになぁ。

俺が歩み寄れればまた違ったのかな。でも、ちょっと疲れちゃったな。


俺はクラスの空気を壊さぬよう仮面を被ることにした。

扉を開くと反町合格を祝ってくれるクラスメートがいた。彼女もおめでとうという。俺もさっちこそおめでとうと返すのだった。


その日からは卒業式まで予定が山積みで中々二人で会う機会は作れなかった。

俺も県立のトップ校に合格した事で、家族が祝ってくれたし、部活の追い出し試合などもあった。

恵美は恵美で、私立の名門大学の附属に受かった事でお祝いやらで夜は会えなかったし、吹奏楽部の定期演奏会準備が忙しい様だった。


そして、恵美と二人で会えたのは卒業式のその日だった。

ふたりきりは12月の中頃以来だ。ここまで会ってないともはや付き合っているのかさえ怪しいが、最寄り駅から二人で歩く帰り道で、あぁ本当に好きな女の子だったんだなと改めて思う。


だからこそ、無理だと思った。


家まで送った俺は切り出した。

「慶法に行くのか?」

その言葉に少しだけバツが悪そうに笑う。

「うん。私の学力じゃ厳しいから諦めてたんだけど模試では届くかもって言われてさ」

「そっか。俺には相談し難かったよね」

俺の言葉と顔は多分沈んでいたのだろう。彼女は慌てて言う。

「ち、違うの。12月に気持ちが動いてから健は風邪だったし悩ませたくなかったし、タイミングがなくて…。でも一番勉強を見てくれたのは健だし健には感謝してるの」

今の自分は多分ひねた解釈しかできない。

冷静になって改めて話す方がいい。そうわかっていた。


でも、

もう無理だった。


「ごめん。恵美。俺は恵美が隣に居るのを当たり前みたいに思い込んでた。でもそれは彼氏彼女としてであって家庭教師としてでは無かったんだ」

「えっ?」

「たぶん恵美にとって俺は彼氏としては力不足だったんだろ?」

「ちょっとまって。そんな訳…」

「でもさ俺は合格発表の日まで恵美が慶法を受けてる事さえ知らなかったんだぜ?俺さ恵美と反町受かる事ばっか考えてさ、直前まで毎日メッセで励ましあったのはなんだったのかなって」

「それは…私だけ先に浮かれるわけにはいかなかったから」

「合わせてくれたのか」

「うん…」

「そっか。それすら気付けないんだな俺」

「ちょっと…健!」

「恵美。別れよう」

「なんでよ!学校が違っても付き合うカップルはいっぱい居るし、知らなかったからって拗ねなくても」

「違うんだ。恵美。最初からズレてたんだ。彼氏なら信用してくれているなら…ただ…教えてほしかった。付き合うこと隠すのも恵美は俺を信用してないからなんだろ?」

「そんなわけない!どうしちゃったの?めでたい日に。反町目指す健に相談しにくかったのは本当。でも健を蔑ろにしたいわけじゃないの」

「我儘かもしれないけど、流石に進路を知らされないってのは堪えたよ。」

「ごめんなさい。私が悪かったから」

「いいんだ。ごめん。でもやっぱり別れよう」

「待って。ねぇ」

「ごめん。俺が耐えられそうにない。ごめんな」


俺は背を向け歩き出した。

啜り泣く声だけは離れても耳に残るのだった。

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