【婚約者のための成績アップ】
名ばかりの共学
明日は待ちに待った入学式です!
貴族の子息や令嬢は『聖王学園』に十一歳から通うのが習わし。私も学園に通うことを楽しみにしていました。友達を千人作るために!婚約者様も一緒ですから心強いです。これからは毎日あえますわ。
「バーバラ、それは無理かもしれないわ」
「お母様?」
「聖王学園は共学ではあるけれど、男女で勉学の場所が異なっているのよ。建物が違っているから頻繁に会うのは難しいかもしれないわね」
なんという事でしょう!
それでは一緒に居られないではありませんか!
男女共同の学び舎ではないのですか?
わざわざ分ける意味があるのですか?
「いっそのこと、学園を分けてしまわれた方がよろしいのでは?」
疑問を口にしてしまい、少し自己嫌悪がです。思ったことを“つい”言ってしまうのは私の悪い癖。こんなことをミレニウス先生に知られれば大変です。お小言は免れませんわ。気を付けなくてはいけませんね。
「以前は男女が分かれてはいなかったのよ。文字通りの共学だったのだけれど……」
お母様が口ごもってしまいました。
「私が聞いても良い内容ですか?」
もしかすると、聞いてはならない事情があるのかもしれません。
「ごめんなさいね、バーバラには少しばかり早い話だと思うの」
「お母様、それならばご安心ください。私は、秘密は守れる人間だと自負しております。それでも不安だと仰るのなら無理には聞きませんわ」
これは大事な事です。
世の中、情報のためには人知れず自白剤を飲ませる者もいると伺っておりますから。
「いやだわ。そう言った意味ではないのよ。そうね、バーバラも学園に入学するのだから知っておいていた方がいいわね」
「なにか事情があるんですか?」
私の質問にお母様はふわりと微笑むと、昔話を聞かせてくださいました。
「聖王学園は、貴族の子弟のための学び舎。貴族階級でない者は入学する事は出来ないとされているの。けれど、例外もあるのよ。優秀な平民出身者を養子にして学園に入学させるというものがね。この場合、養子は只の養子ではなく『期間限定の養子縁組』になるわ。だから家の権利や相続は養子には一切関係がないものなの。もっとも、今では廃れてしまった制度だからバーバラは知らなくても当たりまえのことよ」
はい、全く知りませんでした。
「十数年前に、その制度を使用して、ある平民階級の少女が『伯爵令嬢』として編入してきたわ」
「編入ですか?」
「ええ。『期間限定の養子縁組』に選ばれた庶民の子供の間では編入学は珍しい事ではなかったの。その少女を養子にした伯爵家は慈善活動に熱心な家で、他にも何人もの『期間限定の養子』を通わせていたから学園側も問題視していなかったわ。少女以外の養子が皆、真面目な優等生であったことも信用に値したんでしょうね」
「少女だけは違ったんですか?」
「ふふふ。頭脳明晰で、入った早々に学年トップになるほど優秀だったわ。好奇心旺盛で、勉学以外の事にも熱心に活動をしていたわ。少女の周りには常に高位貴族の子息がいて、少女はさながらお姫様のような扱いで、女子生徒の顰蹙は買っていたものの、少女も子息達もまったく気にしていなかったし、何より、その中に、当時の王太子殿下もいらしてね、そのせいで、少女に注意をする者がいなかった…いいえ、出来なかったわ。少女と王太子殿下は学園でも噂が立つほどの親密な間柄になって、遂に、少女は王太子殿下の子供を身籠る事態になってしまったわ。双方ともに学生の身分。その上、王太子殿下には年上の婚約者までいたのだから大問題よ!王太子殿下は少女と結婚すると叫んで暴れて手が付けられない状態にまでなったわ。結局、王家が王太子殿下と少女の熱意に折れて、二人を結婚させたのよ。世間には『王太子殿下と平民の少女の身分を超えた愛』として宣伝され、王太子殿下の婚約者であった侯爵令嬢は『二人の愛に身を引いた素晴らしい婚約者』と謳ってね。それが、今の国王と王妃の真実の話よ」
なんだか納得です。
王太子と一般庶民が何処で出会ったのか疑問でしたけど謎が解けました。街でのお忍びで出会ったとありましたが、無理があると思ったんです。学園で出会っていたのなら十分あり得る話です。
「『世紀のシンデレラストーリー』の裏側を知って納得です」
「表向き、学園は無関係となっているけれど、不祥事をおこした事は事実。二度とこのようなことが無いように、という戒めとして男女の交流を最低限にしているの」
今の国王陛下の過ちのせいですね、分かります。二匹目のドジョウを狙う輩がいないとも限りませんから判断は正しいのでしょう。
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