第2話 ゼレンスキー(ウクライナ大統領)とは何者か?
ウォロディミル・ゼレンスキー
この名前を最近知った人は多いのではないでしょうか? 他ならぬ私もその一人です。
この第2話ではクリミア併合後のウクライナ政治の中心を担ったこの人物について解説していきたいと思います。
〈生い立ち〉
1978年1月25日、ウクライナでユダヤ系ウクライナ人として生まれた(父:研究者、母:エンジニア)ゼレンスキーは、子供時代から話芸の才能を示し、ロシアのバラエティ番組である「KVN」にもウクライナ代表のアマチュア芸人として参加した経験も持っています。
学業面ではキエフ国立経済大学で法学を専攻していたが、大学卒業後は法曹ではなく、コメディアンの道に進んでいます。
〈芸能活動〉
1997年、コメディ劇団「第95街区」を結成し、ウクライナの大手テレビ局「IHTEP」、「1+1」などに多数の番組を提供していきました。
そんなこんなで、徐々に人気と知名度が高まっていき、「ストリクトリー・カム・ダンシング」というダンス番組では、ゼレンスキー出演回は最大瞬間視聴率87.57%にも達します。
〈社会への問題提起〉
このように、良い感じにキャリアを積んでいったゼレンスキーではありましたが、それとは対照的に祖国のウクライナは不安定な状態が続いていました。
オレンジ革命(2004年の大統領選挙に対する抗議活動)、マイダン革命(親ロシア派のヤヌコビッチ大統領の追放を求める抗議活動、大統領はその後追放された)、などの自由主義革命がおこり、それに対してウクライナ政府が大規模な弾圧を行いました。
こうした中で、ゼレンスキーはロシア・ウクライナ民族主義のどちらにも賛同しない中立派として行動し、政治家の汚職、不正、腐敗、裏切りなどを徹底的に糾弾しましたが、その一方でウクライナ政府が推進するロシア語文化の弾圧には強く反対し、文化大臣の辞任を求めたりしたりしています。
〈国民の僕〉
2015年、ウクライナの国営放送「1+1」でゼレンスキーが主演する政治風刺ドラマ「国民の僕」(全51話)が大流行しました。
選挙で授業を妨害された主人公が怒りに任せて政府批判を行う様子を隠し撮りした映像が投稿され、インターネットでバズったことが導入部となっているこの作品は、第1部から第3部の全3部構成となっています。
2014年の親ロシア派政権の崩壊と東部での親ロシア派武装勢力との戦いに揺れるウクライナで、このドラマは大いに国民感情を掴み、それが後のゼレンスキーの人生の伏線そのものとなっていきます。
〈コメディー俳優から大統領へ〉
このように、ドラマ「国民の僕」が国民的流行となっていく中、作中で描かれた主人公とゼレンスキーを重ね合わせ、現実の大統領選挙への出馬を期待する動きが起きました。
そして、その期待に応えてゼレンスキーが大統領選出馬を声明したのは2018年の事でした。
翌2019年の大統領選挙では何と44人もの候補が乱立し、ペトロ・ポロシェンコ大統領とユーリヤ・ティモシェンコ元首相という2人の候補が存在していたものの、ゼレンスキーは果敢に突っ込んでいきます。
ゼレンスキーは「第95街区」のメンバーらと共に政党「国民の僕」を立ち上げ、選挙活動面では政治集会や討論会などは挑まず、原作の展開と同じくインターネット上での呼びかけを集中的に行いました。
「親愛なるウクライナ国民へ」
この掛け声と共に、公正で自由主義的な社会を目指し選挙を戦います。
以下が「国民の僕」の選挙公約です。
内政面
①「反汚職」をポリシーとし、税金の浪費を止めること。
②選挙制度や裁判制度の改革
③国民投票による直接民主主義の導入
④脱税や賄賂の徹底的な摘発
⑤フラットタックス(全ての税率を同じにする税制)の導入
外政面
①クリミア問題に関しては時間の経過と共に解決を試みる。
②NUやNATOとの交流を深め、親欧米路線を基軸とする。
ゼレンスキーが細かい政策論争を挑まず、理念的な行動を取る事に関して批判の声も多数ありましたが、腐敗と閉塞した状況が続くウクライナ社会に強い不満を持つ青年層や労働者層を中心に絶大な支持を集めました。
そして、選挙結果はゼレンスキーが決選投票で70%以上を得票し、圧倒的な大差を付けて大統領に選出されました(特にロシア語圏である東部や南部では得票率が8割を超える圧倒的な勝利)。
〈大統領就任後〉
2019年7月21日に行われた議会選挙では、単独過半数を大きく上回る勝利で、政党「国民の僕」は現有議席0から一気に第1党になりました。
・・・ですが、ここから雲行きが怪しくなってきます。
まず、ゼレンスキー政権はウクライナが抱える経済、汚職、紛争といった難問の解決に失敗し、当初7割台だった支持率は下落しました(今年2月初めの時点で19%)。
東部ウクライナ独立問題が尾を引き、ロシアとの国交正常化に失敗。
支持率回復のためにロシアに対して強硬過ぎる態度を取った(ロシアに対する強硬姿勢に関しては色々な意見があると思いますが、個人的にはゼレンスキーはもう少し、ウクライナ、ロシア両国の国力差・東西陣営の複雑な背後状況を考えた外交を展開すべきだったと思います)。
第2話はここまでです。
次回、第3話では、2022年2月24日から始まったウクライナ・ロシア戦争の現在時点までの戦況について解説していきたいと思います。
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2022年3月4日 霊凰より
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