ウクライナ・ロシア戦争 混沌極める東欧情勢を分かりやすく徹底解説!

霊凰

第1章 戦争前夜

第1話 クリミア併合

2014年


 クリミア半島は面積2万6844平方キロメートル(四国の約1.3倍)、人口約235万人を抱えている黒海の北岸に位置している半島です。


 黒海とアゾフ海(黒海北部の内海)に挟まれているクリミア半島は、北部はウクライナにつながる草原地帯、そして南部は多くの良港を生み出す山岳地帯であり、紀元前のギリシャ時代から交通の要所として知られてきました。


 地理的には、クリミア半島はロシアに通じるドン川、そしてウクライナの大河ドニエプル川、さらにヨーロッパの大河ドナウ川という三つの大河にアクセスする戦略的な位置を占めている半島です。


 軍事的には、現在、黒海にある港で唯一の大型艦船などの整備などができる大規模な施設がある軍港セバストポリが存在しています(今から他の港に艦船整備施設を作るのは莫大な金が掛かかるため、金欠状態が進行しているロシアには死活問題)。他にも唯一空母を建造できるニコライエフ市黒海造船所など大規模な造船所があり、ロシア唯一の空母クズネツォフや中国空母「遼寧」も過去にここで作られました。


 ここまでで、クリミア半島の重要性は十分過ぎる程伝わったかと思いますが、このクリミア半島を「クリミアはこの地域の安定にとってもっとも重要なファクターであり、この戦略的な領土は、強く、安定し、独立した国の下になければならない。そのような国は今の現実ではロシアだけだ」という決めゼリフと共にロシアに併合したのがロシア大統領のプーチンさんです。


 この、後に「クリミア併合」と言われる事態は2014年3月18日にロシア、クリミア、セヴァストポリの三者が調印した条約に基づき実行され、1991年のソビエト連邦崩壊・ロシア連邦成立後初の、ロシアにとって本格的な領土拡大となりました。


 この突然の併合劇(半ば茶番)は、クリミア半島における住民投票、独立宣言、併合要望決議、そしてロシアとの条約締結という段階を踏んで併合宣言が行われたましたが、当然、国際連合やウクライナ、そして日本、アメリカを含む西側諸国などは主権・領土の一体性やウクライナ憲法違反などを理由としてこれを認めず、併合は国際的な承認を全くと言っても良いほど得られませんでした。


 この時の日本の対応はというと、首相であった安倍さんは安定の遺憾砲(笑)をロシアに対して撃ちまくり、「厳しい制裁を行う構えを見せる」などの毅然とした対応と取ったそうです(全日本人落胆)。


 一応、日本政府の立場に立って擁護しておくと、例の「北方領土問題」をエサにされて他国に比べて踏み込んだ対処を実行することができなかったという事情もありました。


 それでは、ここからはクリミア併合に対するウクライナ・ロシア双方の主張に関して紹介していきたいと思います。


〈ロシア側の言い分〉

①1954年にフルシチョフ(冷戦の雪解け、「スターリン批判」)がクリミア

 をロシアからウクライナに割譲したのは法的な根拠がなく、違法なものであっ

 った。    

②クリミア内のロシア系住民は脅威にさらされており、クリミアは強力な主権国家

 の一部でなくてはならない。それはロシア以外にはありえない。

③ロシアはウクライナの分割を望まず、これ以上の領土的野心はない。

④ウクライナの暫定政権は違法なものであり、これを認める西側諸国は偽善であ

 る。

⑤西側諸国によるロシアへの制裁は打撃となるものではない(結構な痩せ我慢)。

⑥この処置は、ウクライナに住むロシア人、ロシア語を話す人々の利益を守

 るためにやった事である。


〈ウクライナ側の言い分〉

①クリミア半島がソ連に帰属していたのは、1921年から1954年の33年間の

 みであり、それに対して、クリミア半島がウクライナに帰属している期間は201

 8年の時点で64年にも達している。

②1954年のクリミア編入手続きは合法的に行われた。

③クリミア半島内では、ロシア人の人権やロシア語話者の権利は守られていること

 が明らかになっている。

④そもそも、あの住民投票自体がウクライナ法に違反している。

⑤住民投票の結果がロシア側の発表によるものであり、欺瞞に満ちている。

 (ロシア側の発表によると、投票率80%で、クリミア併合賛成は90%超との

 事であったが、実際には投票率50%、併合賛成は30%以下だったとの見方が

 有力)


 この2カ国の言い分を見比べてみて、読者の皆様はどう感じましたでしょうか?


 私の個人的な意見としては、


 ロシア側、ウクライナ側双方の意見に程度の差こそあれど、納得できる部分があるが、クリミア併合の裏側にロシアの軍事的関与があったという事実を勘案すると、ロシアのクリミア併合の大義は消滅する(クリミア半島はウクライナ側に帰属すべき)。


という意見です。


 他に意見がある読者様がいらっしゃたら、コメント欄にコメントお願いします。


 第1話は以上です。次回はクリミア併合後のウクライナの政治情勢について解説していきたいと思います。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 皆さんこんにちは、カクヨムで架空戦記を主に執筆している霊凰です。


 この作品では、ウクライナ・ロシア戦争に関連する事柄をできる限り分かりやすく解説していきたいと思います。


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 2022年3月3日 霊凰より




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