第8話

 自室で俺は絵を描く。スケッチブックという、何度もやり直せるものに描いているから本気になれないのかと思い、キャンバスに変えてみた。

 鉛筆で線を描く。部分的には上手くいっているように見える。しかし、全体を見ると、圧倒的陳腐さに打ちのめされる。

 もう俺はだめなのか。そもそも、俺に描きたいものなんてあるのか。描こうとすること自体、間違っているんじゃないのか。

 だめだ。あんな女にたぶらかされそうになった。平静を装ってかわしたが、本当は鼓動が高まっていた。人の皮が展示された空間の異様さで、緊張したためだろう。それを目の前の女に結びつけてしまうところだった。

 自己分析できている。俺は冷静だ。分析しすぎると、壊れてしまうかもしれないが。

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