第6話

 戸田のマンションから逃げだして物陰に隠れ、警察に通報したが、警察官が到着した時には、吉持と戸田は姿を消してしまっていた。

 警察官は、戸田を捜索すると言ってくれたが、身寄りのない中年男をどれほど力を入れて捜索してくれるか。俺は吉持の危険性を訴えたが、芸術保存協会という名前があいつのヤバさを伝えることの障害になってしまったらしい。警察官の反応が薄い。警察官は、協会の存在を知らなかった。前科はないということなのだろうか。それでも安心はできない。

 俺は、弓野に電話をかけた。彼女は、嬉しそうな声で応答したが、俺の話を聞くと、憔悴した声で謝った。吉持は一人で暴走する癖があるのだと。

「謝って済むことですか。あいつは明らかに犯罪者でしょ」

 道を歩く女性が、道端で声を荒げる俺を見て眉をひそめた。帰宅してから電話をかけるべきだったか。

「そんなことありません。根はいい人なんです」

「根はってねえ……」

 そうは思えない。二人はどんな関係なのだろう。吉持の話からすると、恋人ではなさそうだが。

「片海さんは、戸田さんのお知り合いだったんですね」

「ええ、本当にたまたまなんですけど」

「今からお会いしませんか?」

 俺は少し迷ってから、「展示室とやらを見せてもらえませんか?」と言った。

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