ばれました?

 打ち上げは中華居酒屋だった。町中華の雰囲気を出しているが、大手の飲食会社が経営している。まだ店舗数は少ないがチェーン店だ。この会社が手がけているなかで、最も名の知れた居酒屋でバイトをしているお笑い仲間も多い。

「じゃあ、アンケート回すぞ」

 乾杯してしばらくすると、小宮山さんが高らかに宣言した。

 お笑いライブではお客様にアンケートを配り、面白かった芸人に丸印をつけてもらったり、フリースペースに簡単なコメントを書いてもらったりしている。これがなかなか励みになるのだ。

 俺たちがフリースペースでなにか書いてもらえることはまずないのだが、たまになにか書いてもらえることがある。その多くが漫才の台本をほめるものなので、基本的にネタ作りをしない俺としては複雑ではあるのだが、それでも嬉しい。ネタを書いている優司が見下してくるのは気に食わないが、それでもウキウキした気分になる。

「俺、今日、ビールじゃなくて紹興酒いっちゃおうかな。お客様投票三位だし」

 メニューをながめながら、イチローさんが嬉しそうに言う。口笛でも吹き出しかねないような顔だ。

「餃子と海老チリです」

 無愛想な店員が大皿を置いて、足早に厨房のほうに戻っていく。

「上田、『間違えてますよ、海老じゃなくて蟹のほうです』って言ってみろよ」

 小宮山さんが箸先をこちらに向けてからんでくる。どっと笑いが起きた。心からの笑いではないだろう。小宮山さんだから、みんな気を遣ったのだ。

「あれ、アドリブだろ。優司」

 メニューから視線を外さずにイチローさんが口にする。

「ばれました?」

 わざとらしく優司が頭をかく。

「うん、あれは優司が書けるネタじゃない。そもそも、台詞忘れたなってすぐにわかった」

「そうなんですよ。この馬鹿、ネタ飛ばしやがって。最悪ですよ」

「お前ら、漫才やめろよ。向いてない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る