第十一話 「Равновесие(均衡)」

「ちぃ~ス」


「・・・・・」


"カタタタタタタタタタタタ....


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」


「いやー 今日も寒いねー」


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」


"カタタタタタタタタタタタタタ....


第四編集局の室内に、パソコンの音が響く中


部屋の入り口から第四編集局のデスク、


太田 敦がヘラヘラと軽い足取りで


部屋の中へと入って来る


「・・・・今日は大分機嫌がいいみたいですね」


"カタタタタ....


「分かるか?」


隣の席でパソコンのキーボードを叩いている


三咲に向かって、太田は満面の笑みを浮かべる


「いや~ 昨日はよかったな~」


「・・・何がですか」


"シシッ"


「・・・・?」


何かこっそりとほくそ笑んだ様な


笑みを浮かべている太田を見て、


三咲はキーボードを叩きながら


チラリと視線を送る


「・・・こっちの女は、かなり


"いい"ぞ?」


「・・・女性ですか...」


"カタタタタタタタタタタ...."


「あ、太田さん」


「・・・礼文」


「今日の遅版の、アロ!・コムソモーレツの


 局欄の記事の締め切り、


 午後まででしたよね?」


「・・・そうだっけか?」


自分の机の上に乗ったパソコンを立ち上げながら


太田は側に寄ってきた礼文を見上げる


「いや、そうですよ...


 この間も、そんな事言って締め切り


 飛ばしてましたよね?」


「・・・・」


生来がいい加減な性格なのか、


それともこの所の礼文の態度が


徐々に高圧的になっている事に腹を立てたのか、


何も返事をせず、太田は


無言でパソコンが起動するのを見ている....


「・・・しっかりして下さいよ~」


「ああ、分かってる・・・」


「一応、今は、太田さんと僕は


 同じ"デスク"の役職なんですから、


 こう言う所はしっかり申し渡ししておかないと


 その責任は、僕の方に来る訳ですから...」


「了解、了解」


「・・・頼みますよ。」


"タッ タッ タッ タッ...."


素っ気なく用件だけを伝えると、礼文は


くるりと回り、少し離れた


自分の席へと引き返していく....


「何だよ、アイツ....


 この所、やけに態度がデカいじゃないか」


"カタタタタタタタタタタ....


「―――まあ、礼文君の記事の掲載率は、


 この所、飛ぶ鳥を落とすどころか


 鳥すら飛ばさせない勢いですからね....」


"ピッ ピーーーー


「・・・・」


アプリを入れすぎたせいか、立ち上がりの遅い


自分のパソコンのデスクトップ画面に


目をやりながら、太田が声を荒げる


「あいつ、この間も俺に向かって


 講釈を垂れてたぞ」


「・・・そうなんですか?」


「「記事の掲載をされるには、


  他の記者や局員と視点の違う、


  オリジナリティが必要だ」


 なんて言って....」


「―――まあ、でもそれは


 その通りかも知れないですね....」


"カタタタタタタタタタタタ...


あまり愚痴に深入りしたくはないのか、


三咲は視線を向けず自分のパソコンの画面に


目を向けたまま、太田の言葉に


適当に相槌を打つ....


「大体、河野総局長も


 いくら礼文の記事の掲載率が


 他より少しばかり抜けてるからって、


 それを十年社員の俺と同じ役職をつけたら


 他の社員に示しがつかんだろ。」


「・・・河野総局長は、


 完全能力主義の人ですからね...」


"カタタタタタタタタタタタタ....


「いくら、能力主義だろうが


 現場を回してるのは、


 俺たち中堅の社員だろう。」


「・・・・」


「それを、ポッと出のまだ入社して


 一年程の礼文と十年以上日朝に勤めてる


 俺と同じ待遇にするなんて....」


"ピ ピーーーーーッ


「お、」


かなり立ち上がりの遅い


自分のパソコンのデスクトップ画面に


ブラウザが立ち上がったのを見て、


太田が少し顔色を変える


「まあ、兎にも角にも、記事を


 "掲載"されるって


 事なんじゃないですかね...」


「・・・・」

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