第十話 「Телеграмма из Японии и утро(日朝からの電文)」

"カタ カタタタタタ....タンッ


「(アロ!・コムソモーレツの月間PVは


  1200万PVくらいか....)」


会社が終わり、適当に太田とモスクワの街を


ブラブラしていた隆和は、適当な時間で


アパートへと帰宅し、それから一人


"ネタ"について考えていた....


"カタタタタタタ...タンッ


「(何だかんだ言っても、


  藻須区輪亜部新聞社内での


  紙の紙面の売り上げは


  そこそこを占めてるみたいだな...)」


"タンッ"


「ふぅ~」


「・・・・」


自分のパソコンに表示された


藻須区輪亜部新聞の財務諸表

(※会社の収益が書かれている文書)


から視線を外すと、椅子の背もたれに背中を預け


明かりの点いていない簡素な


コンクリートで覆われた


暗い室内の天井を見上げる....


【記事ってのはオリジナリティが


 必要なんですよ・・・】


「(礼文・・・)」


【父さん! 集合するときは、三人以上かつ


 五人未満だと、申し上げましたよねっ!?】


「(功・・・・)」


"ボォォォォオオオオオオオオ....


「・・・・」


暗い室内を唯一明るく照らし出している


自分のパソコンから漏れる光を


ぼうっと見つめながら、


ここの所凄まじい勢いで


アロ!・コムソモーレツ、そして


Earth nEwsの方にも


チラチラと記事が掲載され始めた


礼文の言葉、そして自分が日本に残した一人息子、


功の事が頭に浮かんで来る.....


【アンタッ!? ロシアにいるんだって!?】


「(宏江....)」


"トゥー トゥ トゥー トゥトゥトゥトゥー♪


「・・・・!」


一人、自分が日本に残してきた妻 宏江や


息子 功の事を考えていると


パソコンの脇に置かれていた携帯電話が


着信音を鳴らす


"トゥー トゥ トゥー トゥトゥトゥトゥー♪


「(松坂局次長か・・・・)」


トゥルレジェのメインテーマ、


「さよならは言わない」


の三和音が室内に流れる中、


"松坂 保夫"


とトップ画面に表示された自分の携帯を手に取る


「ガチャ」


「おー 江母井。 久しぶりだな!」


「あ、ご無沙汰してます...」


「どうだ? ロシアに来てから、調子はどうだ?」


「いや...全部順調です」


「おー そうか!」


「(・・・・)」


事実、ここロシアでの仕事は順調とは


とても言い難いが、ここの所礼文が社内で


実績を上げ出してているのを考え、隆和は


松坂の話に適当に相槌を打つ


「・・・そういや、河野来ただろ?」


「―――いや、それ、もう


 三ケ月前の話じゃないスか」


「あ、もうそんなんになるか!」


「(この三ケ月、本社からの連絡は


  まるで無かったんだが―――....)」


「・・・どうした? 


 ロシアの夜はやっぱり冷えるか!」


「そんな事無いです」


「そうか!」


「(・・・・)」


前回、この日朝本社の編集局次長である


松坂が電話を掛けてきたのは、


日朝のヨーロッパにある支局を統括する


総局長である河野がこの藻須区輪亜部新聞社に


訪れる前の事で、それから三ケ月ほどの間


ほぼこの編集局次長である松坂は


モスクワに送られた自分とは


連絡を取っていない.....


「どうだ! うまくやってるか?」


「ええ、やってますが...」


「そうか! うまくやってるか!」


「・・・・」


あまり中身のある話だと思えない様な松坂の言葉に、


隆和はロシアに左遷された


経緯(いきさつ)もあってか、


歯切れの悪い口振りで答える


「―――それより、今日はどうしたんですか? 


・・・普段全然電話くれませんよね?」


「あ~ そうだな~」


「・・・・」


何となく、だが、特にあからさまに


態度に出ている訳では無いが、


松坂の言葉の端々から、どこか


松坂の自分に対する興味が


非常に薄い事を感じる....


「・・・河野とはどうだ? うまくやってるか?」


「・・・ええ。 いきなり、ロシア支局に


 河野先輩が来た時はかなり驚きましたが...」


「あれ? 言わなかったっけか?」


「聞いてませんでしたね....」


「悪い 悪いっ!」


「(・・・・・)」


すでに三か月前の事だからか、それとも


単純にロシア支局に対する関心が薄いのか、


松坂の態度に、不信感の様な物が


ふつふつと湧いてくる....


「お前の仕事の方は、河野に言ってあるから


 大丈夫だよな? そうだろ!?」


「ええ、まあ....」


この三か月ほどの間、ロシアに派遣された


日朝の社員と、日朝本社の業務連絡を行うのは


ヨーロッパ総局長である、河野の役割であり、


その影響もあってか、松坂は


自分がいる藻須区輪亜部新聞社との連絡を


あまり取っていなかった様だ


「まあ、あれだ! 


 "パワーバランス"って事だな!」


「パワーバランス?」


「そうだ! とりあえず、ウチの本社....


 あの、フランスの...ほら、業務提携した...」


「―――アラベスクの事ですか」


「そう、そうだっ そのアラベスクと


 業務提携をして、お前らのいるモスクワに


 ちょうどいい物件があったから


 ロシアに支局を作るついでに、


 お前らをロシアに送り込んだんだが...」


「・・・・」


「それで、ほら、あの、何だ、


 アレ....アレあったろう。 


 ほら、アラベスクと


 ウチの本社が立ち上げた....」


「Earth nEwsの事ですか?」


「そう、そうだっ その、Earth nEwsの仕事で


 ウチの本社がドイツに河野を派遣して、


 それで...あ~...何だっけか?


 とにかく、あれだ!」


「何なんですか....」


「あれだっ アレ! モスクワに新しく


 支局を作ると言っても、


 そこに日本人の社員がいないと


 河野もやりづらいだろう?」


「別に、河野総局長は


 ウチでは働いてませんが...」


「・・・そうだっけか?


 ・・・まあ、でも、ヨーロッパに


 日本人を何人か連れておけば、


 河野も向こうで仕事がやりやすいと思ってな」


「それで、俺たちをモスクワに


 送ったって事なんですか?」


「ああ、俺はよく知らんが、


 本社の偉いさんの話だと、


 どうやらそうみたいなんだがな!」


「(アンタがその、"偉いさん"じゃないのか)


 ・・・じゃあ、当面私たちは、


 河野総局長の指示に従って、仕事をしていれば


 いいって事になるんですか?」


「ああ~...そう、そうだな!」


あまり、詳しく物を分かっていなさそうな


松坂の言葉を聞きながら、隆和の頭に


ふと、考えが浮かぶ


「この、ロシアには、一体いつくらいまで


 いる事になるんですかね」


「分からんな~ 


 本社の意向次第ってとこだろうな。」


「・・・何か、業績とかを上げたら


 それが評価されて日本に戻れるなんて事は


 無いんですかね」


「それも分からんな~ いや、詳しいことは


 全部河野に聞いた方が早いと思うぞ!」


「・・・・」


「それじゃ、また電話するぞ! ガチャ」


「―――あっ、」


"ツー ツー ツー"


(好かれてねえな~)


"カタッ カタタタタタッ....


「(・・・・・)」


あまり、意味のある会話とも言えない様な


会話を済ませると


「(スポーツ、芸能ネタとかも今時どこでも


  使ってるしなー....)」


"カタッ カタタタタタタタタタッ....タンッ


「("オリジナリティ"か....)」


"カチャチャチャッ! タンッ!


隆和は一人、パソコンのブラウザに表示された


各国のニュースサイトに目を向ける...


「(要は、こいつらを出し抜かんと


  PVが稼げん訳だ....)」


"カチャチャチャチャッ....タンッ!

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