第八話 「Стремление к публикации(掲載を目指して)」

「あれ、江母井編集長はどこ行ったんですか?」


"16:32"


時刻は午後四時を回り、三咲が


図書館からマヤコフスキーの詩集を手に抱えながら


第四編集局の室内へと戻って来ると、


そこには礼文、太田、ゆかり、


ホァンの姿だけが見え、


編集長である隆和の姿は見えない


「ああ、第一編集局の方に行ってるみたいだぞ」


「第一編集局ですか...」


"ガサッ"


身に付けていたコートを自分の椅子の


背もたれに掛けると、三咲は手に持っていた


パソコンと、厚みのある本を自分の机の上に置く


「マヤコフスキーって....」


「知ってるんですか?」


自分が図書館から借りて来た本に太田が


興味深そうな目付きを浮かべているのを見て、


三咲は意外そうな表情を浮かべる


「いや...まあ俺も一応は


 新聞記者の端くれだからな....


 それにもう東京からロシアに来て、三ケ月だ。


 ・・・・お前、まさかそれで、


 アロ!・コムソモーレツの紙面の記事の掲載


 狙ってるんじゃないよな?」


「―――悪いですか」


何か、悪意の見え隠れする太田の態度を見て


三咲が、少しムッとした様な表情を見せる


「いや、何も悪いとは言わんが...」


「・・・・」


表情を強張らせている三咲に向かって


太田が飽きれた様な表情を浮かべる


「お前、少し考えてみろ」


「何をです」


「一般の新聞記事の紙面だって、


 そんな難(かた)そうな文学の記事なんて


 誰も読まんだろ」


「・・・・」


「大体、一般の読者が好むってのは


 スポーツだとか、テレビだとか...


 簡単な記事ばかりだろう。


 そんな知りもしないロシアの詩人の話なんて


 一般の読者じゃ誰も食いつかんよ」


「別に、何も記事を掲載するのは


 アロ!・コムソモーレツだけでは


 ありませんからね...」


「じゃあ、お前その"文学"とかで


 Earth nEwsの方の記事の掲載狙ってんのか?


 ・・・それは無理だろ~」


「そう言う太田さんだって、大したネタ


 持ってないみたいじゃないですか」


「・・・!」


「私は、これでいいんです」


「・・・・・」


そう言うと、三咲は自分が持っていた


マヤコフスキーの本を大事そうに鞄にしまう


「とにかく、ネタ、ネタ、ネタって事か...」


「その様ですね」

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