第六話 「Покрытие(取材)」

"カタタタタタタタタタタ...


「それじゃ、取材行ってきます」


"ガタッ"


「Какой бы вкусной ни


 была еда, не очень


 приятно каждый раз


 отправляться...

(いくら食べ物はおいしいって言っても


 こう、毎度行かされちゃあ


 少し気分もよくないね・・・・)」


第四編集局で自分の席に座っていた中根が席を立つと


それに合わせる様に、少し離れた席に座っていた


ロシア人の女性社員、エレーナ・イリヤソバも


席から立ち上がる....


"コッ コッ コッ コッ..."


「(12時か・・・)」


中根とエレーナが自分の席に


近づいてきたのを見て、隆和は


現在時刻が十二時を回った事に気付く


"コン コン"


「・・・・編集長?」


「ああ、」


エレーナと中根は、編集長席の側に立つと


隆和の席の前に設置された衝立を二度程ノックし、


その裏から顔を覗かせる


「あ~、今から....」


「"食レポ"か?」


「あ、ああ、そうス」


「・・・・」


この所昼食の時間になると、


アロ!・コムソモーレツ紙の


インターネットサイトに掲載されている記事、


「ロシア、中国の食べてピロシキ!」


の取材のために社の外に出るのが


慣例となっている中根とエレーナを見て、


隆和は少し、表情を崩す


「意外とロシア人と中国人って組み合わせが


 ウケがいいみたいだな...」


「別に俺、中国人じゃないんスけどね...」


【食べてピロシキ!】


アロ!・コムソモーレツ紙のサイトに掲載される


中根、エレーナが発案した


シリーズ物のグルメ企画の記事で、


この二人のロシア人と"中国人"の


大食いの社員がモスクワ市内において


ランチを食べると言う企画が好評で、


ここの所この二人は毎日の様に


社外に出て、二人で昼食を取っている...


「別に俺、メタボとか、コレステロール値とか


 糖尿病とかもけっこう気にしてるんスけど...」


中根が自分の腹を抑えながら、


編集長席に座っている隆和を見る


「何、普段からメシをよく食ってるお前の事だ。


 この企画はまさにお前のために


 用意された様な企画じゃないか?」


「・・・そうなんスけどね...」


「・・・・」


自分の部下が不満げな表情を見せているのを見て、


隆和は顔を上げ、パソコンから中根に顔を向ける


「・・・"中国人"って設定が気にいらないのか?」


「いや、そう言う訳でも無いんスけどね...


 どうもロシアだと、中国人がメシ食ってる方が


 通っぽくてウケがいいから


 エレーナの勧めで、俺が中国人って


 設定にしたんスけど...」


「・・・・」


「何か最近、社内歩いてても中国語で


 話しかけられる事が多くて...」


「・・・同じアジア人だ。 顔も似てる。」


「そうすね.... 


 Пойдем, Елена.

(行こう、エレーナさん。)」


「О, это китайский


 язык сегодня?

(ああ、今日も中華かい?)」


「... может и хорошо

(・・・いいかもな)」


「(・・・・・)」


"タッ タッ タッ タッ....


「("食べて、ピロシキ!"か....)」


"ガタッ


「(・・・・)」


ロシア語でエレーナに喋りかけている


中根の後姿を見ながら、


自分のパソコンに視線を移すと、隆和は


まだ紙面に掲載率の低い


自分の記事の事を考える....


「(ここらで一本、俺も何かしら記事を


  掲載されないと、ここでの立場も


  かなりマズい事になるかもな...)」

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