すさびる。『男子ってホントこういうの好きよね』

晴羽照尊

男子ってホントこういうの好きよね


 ――二年二組の教室にて――


 それ・・は、いつも、どんな世代でも行われてきた。放課後の教室で、連綿と受け継がれし、風習。そう、掃除当番での、ひと幕である。


「っしゃあ! 気合い入れていくぜ!」


 そう言って火ぶたを切るのは、ほうき二刀流の高橋クリーニングマスター・タカ

 誰もが憧れる、もっともメジャーな二刀流だ! たいていはクラスのムードメイカーが務める! むしろ平均以下の生徒がそれを名乗ろうものなら、その日の掃除がなんだか気まずい雰囲気になるぞ!


「ふっ……ごみは俺が確実に受け止めよう」


 そう言って腰を落とすのは、ちりとり二刀流の慎一郎ベストレシーバー・シン

 見た目は地味だが、花形であるほうき二刀流クリーニングマスターの相方であり、そこそこ人気が高い! 仕事内容も楽だし、体よりも頭を使うような気がしないでもないその役割は、グループの参謀役がこなすことが多い! 実際に二刀流になっても特段に清掃効率は上がらず、むしろごみ収集能力は一刀流より低下しているぞ!


「いいからとっとと終わらせようぜ~」


 気怠い声を上げた、その男。そして彼の後ろに控える二人を含めた三人こそが、雑巾二刀流の山田、田中、富田モブキャラ・チーム

 日々ほうき二刀流クリーニングマスターを目指し、放課後になると清掃用具ロッカーに駆け寄る者どもだ! 熾烈な争いに負けても、その志までは失っていない! せめてもの強がりで、雑巾をでき得る限りに格好よく振り回し雑務に勤しむ、可哀そうな集団である!


「…………」


 そんな騒がしい者どもを冷めた目で一瞥し、自らの職務に戻るのは、黒板消し二刀流の健司ダブルクリーナー・ケン

 粉まみれになるので倦厭される役職だが、その実、仕事内容は簡単だし、チームワークもクソもない! ゆえに、チームプレイの苦手な、クラスカーストの低い男子がなんとなく押し付けられるぞ! でも、担当する彼は自らの職務に誇りを持っており、それでなけなしのプライドを保っていたりする!


「ひゃっはー! おらおらおらおら!」


 明らかにヤバそうなのが、チョーク二刀流の悠太ただの邪魔者・ユウ

 黒板を綺麗にしている黒板消し二刀流ダブルクリーナーの邪魔者だ! どっか頭のねじが飛んでいる彼は、掃除中だというのに黒板に線を引きまくっている! 本人はお調子者を気取っているが、ただの邪魔な男子生徒でしかないぞ!


「じ、じゃあ、ボクはごみ、捨ててくるから……」


 誰にも聞こえない声でぼそりと呟くのは、ごみ袋二刀流の西山パシリ・ニシヤン

 最底辺のいじめられっ子が、空気を読んで担当する役職だ! 最初は押し付けられていたけれど、いつからか自ら率先して行うようになるぞ! ごみ収集場の臭いや、重いごみ袋を持ち長い廊下を進むのは気が重くなるが、誰とも関わらなくてよく、技術も必要としないこの仕事は、意外と適材適所だったりする!


 こうして各々の役回りは決まり、清掃はわちゃわちゃと進む! ときには野球が始まり、あるいはチャンバラごっこも織り交ぜつつ、業務は、滞りまくって日が暮れる!




「ちょっと男子! ちゃんと掃除しなさいよ!」


 大声とともにクラスへ闖入する彼女こそが、メガネ二刀流の花子メガネガール・ハナ

 もはや意味が解らない! なんでこの子、メガネふたつかけとるん!? どうしてその姿で凛として男子に注意できるの!? 本来ならそのようなツッコミをかます場面であるが、彼女の剣幕に押され、男子たちは押し黙る! さわらぬ神に祟りはないぞ!


「ホンット! 男子ってこういうの好きよね! なにが楽しいのか解らないわ!」


 メガネ二刀流の花子メガネガール・ハナはずかずかと教室に足を踏み入れ、男子たちを見回した! くいっ、と、かけていたふたつのメガネを同時に、一度、持ち上げて正しながら!


 なにが楽しいのか解らないのはこっちの気持ちだよ! そう、男子たちは思った! なんでこの女子、メガネふたつかけとるん!?

 そう思うと、なんだか腹が立ってきた! 本当に! なんで! メガネふたつかけてんだよ!!


「うるせえよ! 掃除はちゃんとやってるよ!」


 ほうき二刀流の高橋クリーニングマスター・タカは叫んだ! そのほうきを一本、彼女に突き付けて!

 リーダーの言葉に、「そうだ! そうだ!」と雑巾二刀流の山田・田中・富田モブキャラ・チームが乗っかった! 彼らは自己主張は乏しいが、周りでなんか騒ぐことには卓越している!


「あっそう?」


 ふふん、と、笑って、メガネ二刀流の花子メガネガール・ハナはふたつのメガネを持ち上げた! そして、得意げな顔で、クラス中を闊歩し始めたぞ!


「……全然掃けてない。雑巾がけもしてないね。ていうか、黒板に関してはさっきより汚れてる」


 的確な指摘をする、メガネ二刀流の花子メガネガール・ハナ! ぶっちゃけそれを指摘されると言葉がない!


「覚悟は、できてるね?」


 くいっ、と、メガネ二刀流の花子メガネガール・ハナは、ふたつのメガネを見よがしに持ち上げる! これは……なにかを仕掛ける目だ!!


「くっ……やれるもんなら、やってみろ!」


 決して、正論などには屈しない! そう決意し、ほうき二刀流の高橋クリーニングマスター・タカは、ふたつのほうきを振り上げ、なんか、格好つけた!


 そうして、見つめ合うこと、二秒!


「せ~んせぇ~! 高橋くんたちが、掃除サボってま~す!」


 ふと、メガネ二刀流の花子メガネガール・ハナは、どこかへ向かって声を張る! すると!


「こぅらああぁぁ!! なにサボってんだ、高橋いいぃぃ!!」


 けたたましい雄叫びとともに、竹刀二刀流の大井川バイオレンスティーチャー・ゴリガワが現れた!

 ある日、唐突に現れたMPペアレントオブモンスターの台頭により、絶滅寸前にまで追い込まれた存在だ! しかし、その怖さは、他の教師ティーチャーたちをはるかに凌駕しているぞ! だが、PTAの会合では実は、もっとも礼儀正しい種族である!


 ぎゃあああああぁぁぁぁ――――!! 阿鼻叫喚が、教室を埋め尽くした。免れたのは、偶然、ごみを出しに行っていたごみ袋二刀流の西山パシリ・ニシヤンだけだったという――。


 二年二組は、今日も平和だった。



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