スキル「二刀流」

松竹梅

第1話

 2100年。


 世界は特に大きな変化もなく、平凡普通な日常が広がっていました。

 100年前と変わらない仕事風景、変わらない人間の姿かたち。

 道具やネット環境が少し成長したくらいで、完全自立型AIの確立にはまだちょっと物足りない時代。

 一歩先をいく変化といえば・・・。


「やっぱ二刀流っていいよなぁ」

 一人の少年が目をキラキラさせて画面を凝視しています。「歴代の偉人たち」というドキュメンタリー番組。二刀流という大きなくくりで、それまでは困難、あるいは不可能と言われた偉業を達成した様々な分野の人々を紹介しています。当代最強と言われた二刀流剣士、ピッチャーでありながら何度もホームランを打った野球選手などの輝かしい人生すべてがドラマ風に流れていきます。

 彼には10歳年上の兄がいて、とてもかわいがってもらっていました。


「お、お前も二刀流のカッコよさがわかってきたか」

「あたりまえだよ兄ちゃん!もうすぐで、ぼくも新しいスキルをつけることができるようになるんだから、どのスキルにするか今のうちから決めておかないと!」

「二刀流とはいえ、一つは親の遺伝で決まってしまうから選べるのはもう一つだけだけどな。お前の遺伝スキルが何だったか忘れちまったけど、どんなスキルがいいんだ?」

「たしかなんでも好きなもの選べるんだよね?それだったら入れたいスキルいっぱいあるんだ!サッカーでしょ、野球でしょ、ホッケーでしょ、バスケでしょ、それから~それから~!」

「バカだなぁ、同時につけられるのは一つだけだろ!どれか一つしか選べないんだから」

「え、でも昨日学校の先生が言ってたよ?『遺伝スキルは一生変更することができません。性格、性向、思考、志向など、その人の根幹をなすスキルだからです。一方で、選択スキルはつけ外しが可能です。みんなの将来なりたいものに向けて、いろんな選択が用意されています』って」

「そうなのか?何回も変えられるなら、やりたいこといっぱいできるじゃないか!俺はもう料理一本で行くと決めたからいいが、やりたいことたくさんあるお前にぴったりだ」

「うん!」

 華々しい夢語りも、幼少期のこんな会話から始まると思うと、偉業を成し遂げた人たちの影響力たるや、子供の背中を押す手助けにもなるんですね。


 それから少年は様々なスキルをとっかえひっかえ。

 運動好きな彼は野球、サッカーのほか、ホッケー、バスケ、バレー、卓球、柔道など、多くのスポーツ競技を経験しては、浮名を流したのです。

 一つの大会で優勝しては、「次はセパタクローをしようと思います!」と高らかに宣言。スキルを入れ替えては表彰台に上りました。

 多くのジャンル、様々な大会で優勝した彼でしたが、30代半ばで急死します。最後につけていたスキルは剣道でした。

 最後を看取った兄は、自分よりもだいぶ若い弟の手を取って叫びました。

「まだまだこれからやりたいこといっぱいあっただろうがよぉ・・・。なんでもかんでも一番になろうなんて・・・するもんじゃなかったのかもしれねぇな」


 しかし、彼らは気づいていなかったのです。

 自分たちの遺伝スキルが「真性バカ」だということを。

「バカの一つ覚え」により、恩師のいった言葉のうちのいいところだけを覚えて、スキルを入れ替えるたびにそれを根拠にしていました。


 では悪いところは何だったのか。それは「スキルを変えるたびに、寿命を1年削る」というもの。偉業に代償はつきものなのです。

「簡単に他の人にはできないことができるようになるとは思わないように」と、かつての少年がなくなってからの番組で紹介されましたとさ。

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スキル「二刀流」 松竹梅 @matu_take_ume_

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