第61話 アラサー令嬢は反省する
「ご厚意感謝いたします…でも、大丈夫だと思います」
自分一人でも、お父さんを説得できるということかな。
(まぁ男の子として、同い年の相手に助けられるのは抵抗あるかも)
「そうか。上手くいくといいね」
シリウスは、さわやかに笑った。
王子がここにいたら、『うさんくさいけど騙される人は多そうだねー』と、それこそさわやかに言うだろう。
「では失礼するよ。シャーリィ、行こう」
「はい」
ジャック少年に軽く会釈して、シリウスと並んで歩き始めた。
しばらく背中に視線を感じたが、できれば二度と会いたくない等と、考えてしまう。
(正義感の強い、いい子なんだけど…)
その正義感で『悪』に認定されるのは、断じて拒否したい。
(ヒロインにもジャックにも決して近づかない。それでも何らかの強制力が働いて、『悪』とされる可能性は残るんだよね…)
本当に冤罪だとしても、事実を知らない人にとってはただの罪人になってしまうというような。
(強制力って、そういうものだと思ってるんだけど…)
冤罪でも真実でも、
(…うう、学園入学が怖いよ~ あと3年と少しかぁ)
角を曲がり、完全にジャックくんから見えない場所に入ったところで、私は頭を下げた。
「ごめんなさい、シリウス。探させてしまって」
シリウスは『気にしないで』、というように手を振る。
「会場からシャーロットの姿が見えなくて、とりあえず僕が出てきたんだ。そうしたら、君が花壇の方に行ったと、メイドさんが教えてくれた」
シリウスは屈託なく笑って付け加えた。
「まぁ君には精霊様も付いているから、何もないとは思ったけど一応ね」
(うーん、体はなんともないけど、メンタルが少し削られたかもですね…)
口にはしなかったけど、少し微妙な表情になったのだろう、シリウスが眉を寄せてこちらを見た。
「…もしかして何かあったの? まさか、さっきの彼が…!?」
「違っ、違います! 会場で、女の子達と話して…少し…」
慌てて否定しながら、彼女らが口にした『銀の君』の話を思い出すと、苦い気持ちが蘇った。
シリウスが、気づかわしそうな声で尋ねてくる。
「…こんなお祝いの席でないとは思いたいけど、何か嫌なこととか、キツイことでも言われた?」
やはり子供のお茶会でも、イジメっぽいことはそれなりにあるんだろう。
(ジャック少年が、すぐ結び付けたわけだ)
「イジメられた訳じゃないんです。少し微妙なんだけど…シリウス」
「なに?」
「『銀の君』って知ってます?」
シリウスの目が大きく開いた。
「『銀の君』が殿下とシリウス様に張り付いているから、女の子は誰も近づけないと聞きました」
「それは…」
社交界の動向や噂に詳しいシリウスなら、知ってて当然だろう。
「『銀の君』…貴族の子弟で銀髪って、私だけなんですよね?」
シリウスが、言葉に詰まるのはとても珍しい。
私は改めて、自分の考えが足りなかったことに気づいた。
「ごめんなさい、シリウス…まさかそんなことになってるなんて」
(嫌われていたのもショックだったけど…)
自分が、思いもよらない強固な『令嬢バリアー』になっていた事によって、
1.まだ婚約者のいないシリウスの『出会い』を妨害して
2.王子に恋愛結婚を奨励しといて、自分がその機会を奪っていた
…わけだ。反省しかない。
ヒロインは、まだ貴族の社交場にはいなくても、少し話をしたあの令嬢のように、密かに王子を慕う女の子はきっといる。
王子が彼女らの誰かと恋に落ち、私との婚約が無くなれば、私はこの先の展開を、当事者でなく外側から見ることができる。
そうなれば、誰が王子の婚約者になっても、先回りして断罪フラグを折りまくるのだ!
(さすがに魔獣を呼び出すような令嬢は、闇の精霊持ちのシャーロット以外いないと思うけど…その辺にいそうな犬とか人間をけしかけられても困るから、その原因を無くさないと)
ほぼ罪滅ぼしだけど、国にとっても王子にとってもいい事だろう。
ヒロインの出番は減るかもしれないけど、イジメられるよりましだろう…多分。
(いやヒロインだもん!光の聖女様だもん、見せ場なんてたくさんあるよね!)
私はあえて『イジメられたところを助けに来るからこそ立つ攻略対象とのフラグ』を無視することにした。
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