第13話 幼年王子は呆然中



「単刀直入に申しますぞ、陛下。ウイザーズの娘はおやめください」


 傲慢で身勝手な物言いに、王の眉はひそめられた。


「陛下が、あの新参者と交友を深めているのは知っております」

「……8代続いた侯爵家が『新参者』というのも大概だな」


 王がぽつりとつぶやくと、老公爵は胸を張った。


「我が家は、建国から11代王家を支えておりますれば」

「そうか、そうか。それで?」


 それがどうした?と、簡単に返され公爵は鼻白む。

 他の誰かから言われたなら叱りつけようもあったが、相手は国を作った家の長である。唯一、公爵家ですらかなわない歴史ある家系だ。

 公爵は気を取り直して、口を開いた。


「陛下の個人的な交友関係に、口は挟みますまい。ですが、娘を、次代の王妃にするというなら話は別です」


 王は静かに笑った。


「私が、友の娘だから、王子の婚約者にしようとしていると?」


 心なしか公爵が一歩下がったように、王子には見えた。


「お前は、あの娘を見たことがあるか?」

「……我が公爵家とは、縁のない娘です」

「なるほど。だからそんな、つまらぬことが言えるのだな」


 王子は何度か、話題の主、シャーロットに会ったことがある。

 キレイな少女だが、それ以上にワガママ放題に育った様子が見てとれて、あまり好ましいとは思えなかった。


「話には聞いているだろう。銀髪に紫眼……誰かを思い出さぬか?」


 公爵は口元を引き結んで、答えなかった。


「実際に見たら驚くぞ。あの美しい銀の髪、紫水晶の瞳。肖像画で見た、三代前のアルフレッド王とまるで同じだった。アルフレッド王の妹を祖母に持つアメリアから、『精霊王妃』の色を見事に受け継いだわけだ」


 まぁアメリアは金髪だったがな、と王は何かを思い出すように目を細めた。


「……残念だったな。卿らが妨害しなかったら、ウイザーズ侯夫人アメリアは、我が妻だったかもしれぬのになぁ」


 初めて聞く話(それも超重要な事項がつぎつぎと……!)に、王子の理解が追いつかない。

 とにかく後で『肖像画の間』に行こうと決めた。

 公爵は不利を悟ったのか、黙ったままだ。


(なにか後ろ暗いところが……あるんだろうなぁ)


 すでに王子も、貴族の婚姻に夢は見ていなかった。


「まぁ、それは置いておくとして」


 忘れてやると、王様は言わない。


「単純に、ウイザーズ候の娘以上に、王太子妃の条件に合う令嬢がおらん。此度こたびは、あきらめろ」


 話はここまで、と、席から立ち上がる王に、すがりつくように公爵が叫んだ。


「お待ちください!」


 しつこい……との舌打ちは、側にいた王子だけに伝わった。


「陛下、もう少し待っていただきたいのです!」

「何度も言わすな。公爵家に娘がいなければ同じことだ」

「ですからもう5年、いえ3年、お待ちください! さすれば、いずこの家にか娘ができ……」


 ほんとしつこい……王子も嘆息した。

 王は目頭に手を当て、何かを耐えるように目を閉じた。

 頭を一つ振って目を開けると、きっぱりと言い捨てた。


「まだこの世におらん者を当てにできるか!」


 しごくもっともな言い分だった。

 そして退出。

 後ろからは「「「お待ちくださいぃぃ!!」」」の声が、わんわんと反響していた。




 その夜、王子は父親から『あの公爵ジジイがめんどくさいから、精霊契約する』ことを聞かされたのだった。



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