第8話 幼女アラサーは披露する
最初王子は、何を云われたのか分からないようだった。
言葉の意味が浸透するにつれ、怒ってるような困ってるような複雑な表情になった。
「……シャーロット、それはいったい」
王子の言葉を遮るように、私は口を開いた。
「私の、殿下へのかくしごとは消えましたが、陛下や他の方々はまだ知りません」
王子は警戒するように、こくりと頷いた。
「殿下は、陛下に……私のことを話されますか?」
王子が話すというなら、それは仕方ないことだと思ってる。
王様がどう出るかは謎だけど、公爵家へのけん制を考えて、すぐに婚約解消はない気がする。
「言うつもりはない……くわしい内容は知らないけど、もし侯爵が君の守護精霊を偽ったことで、婚約が解消されることになったりしたら、父上に迷惑がかかる」
ですよねー。
(うん。いい子だな、王子様)
シャーロットとの婚約を、解消できるチャンスなのに。
まーここで婚約者がいなくなったら、次の婚約者が決まるまでに、相当面倒くさいことになるのが分かってるのかも知れないが。
「ありがとうございます」
頭を下げた婚約者(暫定)に、王子は少しすねたように斜め下を見る。
「君のためじゃない。それより、さっき君の言った、僕らで精霊契約というのは?」
「はい。新たに精霊契約を結び、殿下と私の婚約を、解消できる条件を設定するというのはどうでしょう?」
殿下をわずらわせた、おわびにもなると思います……と付け加えると、王子はますます難しい顔になった。
「今、婚約解消するのは、あまり望ましいことではないようです」
四大公爵家と『私』以外は、だけど。
「ですが、このまま王様や、まわりの方をだましていくと思うと、とても心苦しいのです……」
王子様は顔を曇らせた。
「それは……」
「ですから、この先……そうですね、殿下と私が学園に入学する歳になったら、婚約を解消できるようにする、というのはどうでしょう」
10年あればと、思わせぶりにつぶやいてみる。
「私たちをとりまく状況も、変わるのではないでしょうか?」
しばし沈黙が流れ、王子が口を開いた。
「……そんなことが、できる?」
「お許しをいただければ、今、私の守護精霊に聞いてみます」
無責任だが、出来るかどうかは自分でも分からなかったりする。
シミュレーションはしたつもりだけど、『精霊契約』は考えてなかった。
「ここに、呼ぶの!?」
「実は、最初からここにいます」
王子が話の通じる相手なら、ばらしてもいいだろうと思っていたので、あっさりと告げた。
私は右手を横に広げた。
すると手の先に、弱弱しい光の粒が集まり始める。
「人の形にするには、まだ私の力が足りませんが、意思の疎通はできます」
ここ数日の成果である。
ゲームのワンシーンを思い出しながら、睡眠時間を削って一生懸命、守護精霊に祈り、語り掛けた。
ヒロインが『光の精霊』に話しかけるシーンの応用だったんで、少々不安ではあったけど、祈り始めて二日目、ようやく薄っすらとした影のような姿が現れた。
『あなたが闇の精霊様?』
『……だ。何用だ、愛し子』
(いとしご……いとしごー!?)
落ち着いたイケメンボイスに『愛し子』などと呼ばれ、年甲斐もなく、喜んでしまいました。
(いや7歳だ、7歳よ、自分。子供なのよ。間違えないで)
『お応えいただき、ありがとうございます。教えていただきたいことが……』
初日は10分くらいだった。
次の日には30分くらい話せるようになったおかげで、結構、意思の疎通がはかれた。
「今、ここで話していることも、他の人には聞こえないようにしてもらってます」
「え…」
王子はぱっと顔を上げて、ドアの方を見た。
王子の視線に応えるように、護衛の人が軽く頭を下げた。
「……聞こえては、いないのか?」
かすれた王子の声に、しれっと言葉を返す。
「大きな声なら聞こえます」
万が一、非常事態とかになったらマズいし。
屋敷内は安全だと思うけど、声が届かないと思った王子が、パニックとか起こされても困る。
「シャーロット嬢……」
怒ってるな、これは。
仕方ないか。
「ずいぶんと、礼を失した行いだとは思わないか?」
「失礼なことをしていると思います。ですが、私も必死だったのです」
真剣な顔をしてにらんでみた。
アラサー秘儀、逆切れ(笑)。
育ちの良い王子様は、ぐっと言葉につまったようだった。
「秘密のお話ですし、なにより信じてもらえないと困ると思って」
「だからと言って……」
キャパオーバーしたのか、王子は額に手をあてて、うつむいてしまった。
(まだ7歳だもんね。あーごめん、本当にごめん)
将来、君に断罪されるかもしれないのを根に持ってたりはしてない……多分。
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